はじめに

前回は、燃料を実際にシリンダ内へ噴射する、燃料噴射弁と燃焼状態について整理しました。
今回は、四サイクルディーゼル機関の吸気弁・排気弁・バルブローテータについて整理します。
四サイクルディーゼル機関では、吸気弁から空気を取り入れ、排気弁から燃焼ガスを排出します。
吸気弁と排気弁は、どちらもガスの出入りに関係する重要な部品ですが、置かれている条件は同じではありません。
特に排気弁は、高温の燃焼ガスにさらされるため、吸気弁よりも熱的に厳しい条件で使用されます。
そのため、試験では、

  • 弁のすり合わせ
  • 吸気弁・排気弁を複数設ける理由
  • 弁棒頭部の摩耗対策
  • 排気弁に弁箱を設ける理由
  • ステライトの特徴
  • バルブローテータの目的

などがよく問われます。

吸気弁と排気弁の役割

吸気弁は、シリンダ内へ新しい空気を取り入れるための弁です。
排気弁は、燃焼後のガスをシリンダ外へ排出するための弁です。
四サイクルディーゼル機関では、吸気、圧縮、膨張、排気の各行程に合わせて、吸気弁と排気弁が適切な時期に開閉します。
整理すると、次のようになります。

主な役割使用条件
吸気弁シリンダ内へ空気を入れる比較的温度条件は低い
排気弁燃焼ガスを排出する高温の排気ガスにさらされる

排気弁は、高温の燃焼ガスが通るため、吸気弁に比べて損傷しやすい部品です。
そのため、排気弁では、冷却、材質、取付け方式、点検整備のしやすさが重要になります。

弁座のすり合わせ

吸気弁や排気弁では、弁フェースと弁座がしっかり当たっていなければなりません。
当たりが悪いと、燃焼ガスが漏れ、圧縮圧力の低下、燃焼不良、弁の焼損などにつながるおそれがあります。
弁座の荒れが軽微な場合には、すり合わせによって当たりを修正します。
すり合わせでは、カーボランダムやエメリーペーストなどを使用し、弁と弁座の当たりを整えます。
ただし、すり合わせ作業では、次の点に注意が必要です。

注意点内容
軽く叩きながら回す弁を弁座に強く押し付けたまま回さない
位置を少しずつ変える同じ位置だけでこすらない
仕上げに油ずりを行う当たりを均一にする
研磨剤を完全に取り除くカーボランダムなどが残ると摩耗の原因となる
弁棒部に研磨剤を付けない弁棒や案内部の摩耗を防ぐ

すり合わせは、単に弁をこすり合わせる作業ではありません。
弁と弁座の気密を回復し、燃焼ガスの漏れを防ぐための作業です。

吸気弁・排気弁を2個ずつ設ける理由

四サイクル高速ディーゼル機関では、1つのシリンダに吸気弁と排気弁をそれぞれ2個ずつ設けることがあります。これは、1個ずつ設ける場合に比べて、ガスの通路面積を大きく取ることができるためです。弁を複数にすると、吸気や排気の流れがよくなり、ガス交換が有利になります。

弁を2個ずつ設ける利点内容
通路面積を大きくできる吸気・排気の流れを確保しやすい
ガス交換がよくなる新気の取り入れと排気の排出がしやすい
高速機関に適する短時間で十分な吸排気を行いやすい

ここでは、「弁の数が多いからよい」と覚えるのではなく、ガス交換をよくするために通路面積を確保すると理解すると分かりやすいです。

弁棒頭部の摩耗対策

弁棒頭部は、ロッカーアームによって押される部分です。この部分には、開閉のたびに衝撃や摩耗が生じます。そのため、弁棒頭部には、次のような対策が施されます。

対策内容
焼入れ加工表面を硬化させ、摩耗に強くする
ステライト溶着硬く耐摩耗性のある材料を盛る
硬金属片の装着摩耗しやすい部分に硬い金属片を取り付ける
弁キャップの装着弁棒頭部を保護する

試験では、弁棒頭部の対策として、焼入れ、ステライト溶着、硬金属片、弁キャップを押さえておくとよいと思います。

排気弁に弁箱を設ける理由

中形機関では、吸気弁はシリンダヘッドに直接取り付け、排気弁は弁箱、または弁かごを設けて取り付ける方式が採用されることがあります。これは、吸気弁と排気弁の使用条件が異なるためです。吸気弁は、比較的熱負荷が小さいため、シリンダヘッドに直接取り付けても大きな問題になりにくいです。一方、排気弁は高温の燃焼ガスにさらされるため、損傷しやすく、点検や手入れの間隔も短くなります。そのため、排気弁を弁箱式にすると、点検・手入れがしやすくなります。

取付け方式の考え方
吸気弁熱負荷が比較的小さいため、直接シリンダヘッドに取り付ける場合がある
排気弁損傷しやすく点検・手入れが多いため、弁箱式とする場合がある

排気弁は、単にガスを出すための弁ではなく、高温・高負荷の中で使用される重要部品です。そのため、整備性も考慮して設計されています。

ステライトとは

ポペット弁の弁フェースには、ステライトが用いられることがあります。ステライトは、硬さ、特に高温における硬さが高く、耐食性や耐摩耗性に優れています。排気弁の弁フェースは、高温の燃焼ガスにさらされ、さらに弁座と繰り返し接触します。そのため、高温でも硬さを保ち、摩耗や腐食に強い材料が必要になります。

ステライトの特徴内容
高温硬さが高い高温でも硬さを保ちやすい
耐食性がよい燃焼ガスによる腐食に耐えやすい
耐摩耗性がよい弁座との接触による摩耗に強い

試験では、ステライトについて、高温硬さ、耐食性、耐摩耗性を押さえておくとよいです。

バルブローテータとは

バルブローテータは、運転中に弁を少しずつ回転させる装置です。主に排気弁に取り付けられ、弁の焼損や吹抜けを防止する目的があります。排気弁は、高温の燃焼ガスにさらされます。また、燃焼室内のガスの流れや温度分布は完全に均一ではありません。そのため、弁がいつも同じ向きで開閉していると、弁がさ部の一部だけが局部的に過熱されるおそれがあります。バルブローテータによって弁を少しずつ回転させると、弁がさ部の温度分布が均一になりやすくなります。その結果、局部過熱による弁の焼損や吹抜けを防止できます。

バルブローテータで防止できる損傷

バルブローテータの目的は、主に排気弁の損傷防止です。

防止できる損傷理由
弁の焼損弁がさ部の局部過熱を防ぐ
吹抜け弁フェースの局部損傷を防ぐ
弁フェースの損傷当たり面の一部だけが過熱・摩耗するのを防ぐ
弁寿命の低下温度分布を均一にし、損傷を減らす

試験では、次のように整理すると分かりやすいです。バルブローテータは、弁を少しずつ回転させ、弁がさ部の温度を一様にし、弁の焼損や吹抜けを防止する。

バルブローテータの取付け位置

資料では、バルブローテータの取付け位置として、上部ばね受け部が示されています。弁棒頭部と弁ばね受けは、コッターによって結合されます。ここも試験で問われることがあります。

項目内容
バルブローテータの取付け位置上部ばね受け部
弁棒頭部とばね受けの結合コッターで結合する

バルブローテータは、弁そのものを直接大きく回す装置ではなく、弁の開閉運動を利用して、少しずつ弁を回転させる装置と考えるとよいです。

試験で押さえるポイント

今回のテーマでは、次の点を押さえておくとよいと思います。

テーマ押さえるポイント
弁のすり合わせ弁と弁座の当たりを整え、気密を保つ
吸気弁・排気弁を2個ずつ設ける理由通路面積を大きくし、ガス交換をよくする
弁棒頭部焼入れ、ステライト溶着、硬金属片、弁キャップで摩耗対策をする
排気弁の弁箱排気弁は損傷しやすく、点検・手入れしやすくするため弁箱式にする
ステライト高温硬さ、耐食性、耐摩耗性に優れる
バルブローテータ弁を少しずつ回転させ、焼損や吹抜けを防ぐ
取付け位置上部ばね受け部
弁棒頭部とばね受けコッターで結合する

特に、排気弁については、高温にさらされるため損傷しやすいという前提で整理すると、各問題がつながって理解しやすくなります。

実船では

実船では、吸気弁・排気弁の状態は、機関の燃焼状態や安全運転に大きく影響します。弁の当たりが悪いと、圧縮圧力が低下したり、燃焼ガスが漏れて弁が焼損したりするおそれがあります。また、排気弁に損傷が生じると、排気温度の上昇、燃焼不良、出力低下などにつながることがあります。バルブローテータの不具合により弁が回転しなくなると、弁がさ部の一部に熱が集中し、焼損や吹抜けの原因となることがあります。試験では短い記述で問われますが、実際には、機関の信頼性を保つための重要な点検・整備項目です。

おわりに

今回は、吸気弁・排気弁・バルブローテータについて整理しました。ポイントは、次の3つです。

  • 吸気弁と排気弁は、シリンダ内のガス交換に関係する重要部品である
  • 排気弁は高温にさらされるため、吸気弁より損傷しやすい
  • バルブローテータは、弁を少しずつ回転させ、焼損や吹抜けを防ぐ装置である

吸排気弁は、燃焼状態と機関性能に直結します。次回は、クランク軸、連接棒、主軸受など、ディーゼル機関の運動部と軸受について整理します。


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