はじめに

前回は、燃料を高圧にして燃料噴射弁へ送る、燃料噴射ポンプについて整理しました。
今回は、その燃料を実際にシリンダ内へ噴射する、燃料噴射弁について整理します。
ディーゼル機関では、燃料油を高温・高圧の空気中へ噴射し、自然着火させて燃焼させます。
そのため、燃料噴射弁の状態は、燃焼の良否に直接関係します。
燃料噴射弁に不具合があると、

  • 霧化不良
  • 点火遅れ
  • あと燃え
  • 燃焼不良
  • 排気温度の上昇
  • 出力低下
  • カーボン付着

などにつながることがあります。
試験では、燃料噴射弁の構造そのものよりも、開弁圧を変えた場合の燃焼状態開弁圧と閉弁圧の関係ノズル冷却の目的カーボン付着の原因などがよく問われます。

燃料噴射弁の役割

燃料噴射弁は、燃料噴射ポンプから送られてきた高圧燃料を、燃焼室内へ噴射する装置です。
燃料は、ただシリンダ内へ入ればよいわけではありません。
燃焼をよくするためには、燃料を細かい霧状にして、空気とよく混ざるように噴射する必要があります。
この燃料の霧状の状態を、霧化といいます。
霧化がよいほど、燃料は空気と混ざりやすくなり、燃焼しやすくなります。
反対に、霧化が悪いと、油粒が大きくなり、点火遅れや燃焼不良、あと燃えの原因になります。

開弁圧とは

燃料噴射弁では、燃料油の圧力が一定以上になると、針弁が持ち上がって燃料の噴射が始まります。
この噴射が始まる圧力を、開弁圧、または噴射開始圧といいます。
開弁圧は、燃料の噴射時期、霧化状態、燃焼状態に大きく関係します。
試験では、開弁圧を低くした弁、または高くした弁を取り付けた場合に、そのシリンダの燃焼がどう変わるかが問われます。

開弁圧を低くした場合

開弁圧を低くした燃料噴射弁を取り付けると、燃料油は低い圧力で噴射されます。
その結果、次のような影響が出ます。

影響内容
霧化が悪くなる噴射圧が低いため、燃料油の油粒が大きくなりやすい
点火が遅れる霧化が悪く、空気との混合が不十分になりやすい
噴射始めは早くなる低い圧力で弁が開くため、燃料の噴射開始は早くなる
噴射量が多くなりやすい早く噴射が始まるため、噴射量が多くなる場合がある
最高圧が高くなることがある遅れて一時に燃焼し、圧力上昇が大きくなる場合がある
あと燃えを起こす噴射終わりの切れが悪くなり、燃焼が長引くことがある
出力が低下する燃焼不良により、噴射量の割に出力が出にくくなる

つまり、開弁圧を低くすると、燃料は早く出始めますが、噴射圧が低いため霧化が悪くなり、燃焼状態が悪化しやすくなります。
試験では、「開弁圧が低い=霧化が悪い、点火が遅れる、あと燃えを起こす」という流れで整理すると覚えやすいです。

開弁圧を高くした場合

反対に、開弁圧を高くした燃料噴射弁を取り付けた場合は、燃料油の噴射開始には高い圧力が必要になります。
この場合、燃料の噴射時期は遅れます。
しかし、噴射圧が高いため、燃料油の霧化はよくなり、燃焼は良好になりやすいです。
一方で、噴射量は減少することがあり、そのシリンダの出力は他のシリンダに比べて小さくなる場合があります。
整理すると、次のようになります。

影響内容
噴射時期が遅れる高い圧力にならないと弁が開かない
霧化がよくなる噴射圧が高く、燃料が細かくなりやすい
燃焼は良好になりやすい空気と混合しやすくなる
噴射量が減少する場合がある弁が開く時期が遅れるため
出力が小さくなる場合がある他のシリンダに比べ、燃料量が少なくなることがある

開弁圧は、高ければよい、低ければよいというものではありません。
機関に合った適正な開弁圧に調整されていることが重要です。

開弁圧と閉弁圧

燃料噴射弁では、弁が開く圧力と、弁が閉じる圧力は同じではありません。
一般に、開弁圧の方が閉弁圧より高くなります
これは、弁が閉じているときと開いた後では、燃料油の圧力が作用する面積が異なるためです。
資料では、開弁圧を Po、閉弁圧を Pc、燃料油の圧力がかかる断面積を A1、弁座の内側の断面積を A2 として説明されています。
弁が開く瞬間と閉じる瞬間の力を考えると、開弁圧の方が高くなる関係になります。
試験対策としては、まず次の結論を押さえておくとよいです。

開弁圧は、閉弁圧より高い。

そして、その理由は、

弁が開く前後で、燃料油の圧力が作用する面積が異なるため。

と整理できます。

ノズルを冷却する目的

燃料噴射弁のノズルは、燃焼室に近い高温部にあります。
そのため、ノズルが過熱すると、さまざまな不具合を生じます。
ノズルを冷却する目的は、主に次のような害を防止することです。

防止する害内容
ノズル先端へのカーボン付着過熱により燃料が焼け付き、カーボンが付きやすくなる
針弁の焼付き高温により針弁の動きが悪くなる
ノズルの焼損過熱によってノズル自体が損傷する
燃焼不良カーボンフラワーにより噴霧が妨げられる

ノズル先端にカーボンが付着すると、燃料噴霧が妨げられます。
その結果、燃料がうまく空気と混ざらず、燃焼不良を起こします。

ノズル先端にカーボンが付着する場合

ノズル先端にカーボンが付着する原因も、試験で問われます。
主な原因は次のとおりです。

原因内容
燃料噴射弁の冷却不良負荷が増して噴射弁が過熱し、針弁が焼付き気味になる
冷却水温度が高すぎるノズル冷却が不十分になりやすい
燃料弁の摺合せ不良漏れが生じ、燃料の切れが悪くなる
チップの詰まり正常な噴霧ができなくなる
燃料ポンプの作動不良噴射圧力が低下する
油密不良燃料圧力が十分に上がらない
圧縮圧力不足燃焼室の温度が十分に上がらず、燃焼が悪くなる
低質油の使用高粘度や不純物の多さにより、油だれが増える

これらを一つずつ丸暗記するよりも、次の3つにまとめると理解しやすくなります。

  1. ノズルが過熱する場合
  2. 燃料の噴射状態が悪い場合
  3. 燃焼室側の条件が悪い場合

ノズル、燃料ポンプ、圧縮圧力、燃料性状はすべて燃焼状態につながっています。

ノズルを取り付けるときの注意

燃料噴射弁本体にノズルを取り付ける場合にも注意が必要です。
資料では、次のような注意点が整理されています。

注意点内容
十分に洗浄する摺合せの行われた部品を、軽油や良質A重油などで十分に洗浄する
部品を正確に取り付けるディスタンスピースやノックピンを正確に取り付ける
片締めを避けるノズル締付けのキャップナットは片締めにならないよう注意する
締め過ぎに注意する締め過ぎるとノックピンが折損する場合がある

燃料噴射弁は精密部品です。
異物の混入や片締め、締め過ぎは、燃料漏れ、噴射不良、部品損傷につながるおそれがあります。

燃料噴射弁と燃焼状態のつながり

燃料噴射弁の状態は、燃焼状態に大きく影響します。
整理すると、次のようになります。

燃料噴射弁の状態起こりやすい現象
開弁圧が低い霧化不良、点火遅れ、あと燃え、燃焼不良
開弁圧が高い噴射時期の遅れ、噴射量減少、出力低下
ノズル過熱カーボン付着、針弁焼付き、焼損
ノズル詰まり噴霧不良、燃焼不良
油密不良噴射圧力低下、燃焼不良
取り付け不良漏れ、片当たり、部品損傷

燃料噴射弁は、燃料をただ噴射するだけの部品ではありません。
燃料を適切な圧力で、適切な時期に、適切な霧状にして噴射することで、良好な燃焼を支えています。

試験で押さえるポイント

今回のテーマでは、次の点を押さえておくとよいと思います。

テーマ押さえるポイント
開弁圧を低くした場合霧化が悪く、点火が遅れ、あと燃えを起こしやすい
開弁圧を高くした場合噴射時期は遅れるが、霧化はよくなる。噴射量は減少する場合がある
開弁圧と閉弁圧開弁圧の方が高い
ノズル冷却カーボン付着、針弁焼付き、ノズル焼損を防止する
カーボン付着過熱、漏れ、詰まり、噴射圧低下、圧縮圧不足、低質油などが原因
ノズル取付け洗浄、正確な取付け、片締め防止、締め過ぎ防止

特に、開弁圧の問題は、言葉だけで覚えると混乱しやすいです。

開弁圧が低い場合は霧化が悪い。
開弁圧が高い場合は霧化はよいが、噴射時期が遅れる。

このように整理しておくと、覚えやすくなります。

実船では

実船では、燃料噴射弁の状態は排気温度、燃焼音、排気色、出力、燃料消費量などに現れます。
たとえば、あるシリンダだけ排気温度が高い場合、燃料噴射弁の噴霧不良、油だれ、あと燃えなどが関係していることがあります。
また、ノズル先端にカーボンが付着すると、噴霧が乱れ、燃焼不良や排気温度上昇の原因となります。
燃料噴射弁は小さな部品ですが、機関全体の性能に大きく影響する重要な装置です。

おわりに

今回は、燃料噴射弁と燃焼状態について整理しました。
ポイントは、次の3つです。

  • 燃料噴射弁は、燃料を適切な圧力で霧状にして燃焼室へ噴射する
  • 開弁圧の高低は、噴射時期、霧化、燃焼状態に影響する
  • ノズルの過熱やカーボン付着は、燃焼不良や部品損傷につながる

燃料噴射弁は、燃料噴射ポンプと合わせて理解すると、燃焼状態との関係が分かりやすくなります。
次回は、吸排気に関係する、吸気弁・排気弁・バルブローテータについて整理します。


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