はじめに

前回は、三級海技士(機関)内燃限定におけるディーゼル機関の出題範囲と、学習の進め方について整理しました。

今回から、ディーゼル機関の各テーマに入っていきます。

最初に取り上げるのは、クロスヘッド形ディーゼル機関、タイロッド、ピストン冷却です。

これらは、ディーゼル機関の基本構造を理解するうえで重要な部分です。

一見すると、それぞれ別々の問題に見えますが、実際には、

  • 機関本体をどのように支えるか
  • 燃焼圧力をどのように受けるか
  • ピストンをどのように冷却するか

という、ディーゼル機関の基本に関係しています。

クロスヘッド形ディーゼル機関とは

大型の二サイクルディーゼル機関では、クロスヘッド形が用いられることがあります。

クロスヘッド形では、ピストンと連接棒の間にクロスヘッドを設けます。
クロスヘッドには滑り金があり、架構に取り付けられたガイドに沿って往復運動します。

この構造により、連接棒の傾きによって生じる横方向の力、つまり側圧を、シリンダライナではなくクロスヘッド側で受けることができます。

そのため、大型低速ディーゼル機関に適した構造となります。

クロスヘッド形で押さえるポイント

試験では、クロスヘッド形について、次のような内容が問われます。

ポイント内容
滑り金クロスヘッドに設けられ、ガイドに沿って往復運動する
ガイド架構に取り付けられ、滑り金の運動を案内する
側圧連接棒の傾きによって生じる横方向の力
スタフィングボックスピストン棒がクランクケース上部を貫通する部分に設ける
ユニフロー掃気二サイクル機関で、新気がシリンダ下部から上部へ一方向に流れる方式

特に、クロスヘッド形では、シリンダとクランクケースが隔離されていることも重要です。

そのため、ピストン棒がクランクケース上部を貫通する部分には、スタフィングボックスが設けられます。

トランクピストン形との違い

クロスヘッド形を理解するには、トランクピストン形との違いも意識しておくと分かりやすくなります。

項目クロスヘッド形トランクピストン形
主な用途大型低速機関中小型・中速機関
側圧を受ける部分クロスヘッドの滑り金・ガイドピストン・シリンダライナ
ピストンと連接棒ピストン棒・クロスヘッドを介して接続ピストンピンで直接接続
クランクケースとの関係シリンダ部とクランクケースが隔離されるシリンダとクランク室が比較的近い
構造大きく複雑比較的簡単

試験では、細かい比較表をそのまま問われるというよりも、各部の役割を理解しているかが問われます。

タイロッドとは

次に、タイロッドです。

タイロッドは、ディーゼル機関の台板、架構、シリンダなどを一体として締め付けるための長いボルトです。

ディーゼル機関では、燃焼によって大きなガス圧力が発生します。
その力は、シリンダヘッド、シリンダ、架構、台板に作用します。

タイロッドを用いることで、これらの部材を一体として締め付け、燃焼ガス圧力によって生じる引張応力を軽減することができます。

タイロッドを使う利点

タイロッドを使用する利点は、次のように整理できます。

利点内容
分割製作ができる台板、架構、シリンダなどを別々に製作できる
引張応力を減らせる燃焼ガス圧力による部材の応力を減少できる
振動を減らせる機関全体を締め付けることで振動を抑えやすい
軽量化できる構造を合理化し、機関質量を減らせる

一方で、欠点もあります。

欠点内容
製作費が高くなる構造が複雑になり、精度も必要となる
締付け管理が必要締付け力が不適切だと、ひずみや損傷の原因となる

タイロッドで注意すること

タイロッドでは、ねじ、締付け、振動防止が重要です。

試験では、次のような内容が問われます。

項目ポイント
ねじ緩みを防ぐため、山数の多い細目ねじを用いる
加工精度切欠き効果を避けるため、精度の高い加工が必要
長いタイロッド曲げ応力を防ぐため、振止めボルトやブッシュを設ける
保守増締め、セットスクリューの緩み点検などが必要

タイロッドは、ただ「機関を締め付ける棒」と覚えるだけでは不十分です。

燃焼圧力を受ける機関全体の構造を、どのように一体として保つかを理解しておく必要があります。

タイロッドを片締めするとどうなるか

タイロッドを締め付けるときに、片締めをすると、締付け力が不均一になります。

その結果、台板、架構、シリンダなどにひずみを生じるおそれがあります。

ひずみが大きくなると、

  • シリンダ中心線の狂い
  • 主軸受の当たり不良
  • 軸受の発熱
  • 振動の増加
  • ガス漏れ
  • 各部の損傷

などの原因となります。

したがって、タイロッドは、決められた要領で、均一に締め付けることが大切です。

ピストン冷却とは

次に、ピストン冷却です。

ディーゼル機関では、燃焼によってピストン頂部が高温になります。
そのため、ピストンを適切に冷却しないと、焼損、亀裂、焼付き、潤滑油の劣化などを生じるおそれがあります。

ピストン冷却には、主に次のような冷却媒体が用いられます。

  • 清水
  • 潤滑油

試験では、特に清水冷却と油冷却の比較が問われます。

潤滑油でピストンを冷却する利点

冷却液として潤滑油を使用する場合、清水を使用する場合と比べて、次のような利点があります。

利点内容
漏水による潤滑油汚損がない清水が漏れてシステム油を汚すおそれがない
装置が簡単になる軸受などの潤滑油を利用できる
腐食のおそれが少ない清水に比べ、冷却室などの腐食を起こしにくい

油冷却は、漏水による障害を避けられる点が大きな利点です。

潤滑油でピストンを冷却する欠点

一方で、潤滑油による冷却には欠点もあります。

欠点内容
多量の油が必要清水に比べて比熱が小さいため、多くの油を要する
油が劣化しやすい高温部に触れると劣化しやすい
炭化物が付着する油の炭化物が冷却面に付着することがある
軸受損傷につながることがある劣化油や炭化物が潤滑系統に悪影響を与えることがある

つまり、油冷却は便利ですが、油の劣化や汚れには注意が必要です。

トランクピストン機関の油冷却方式

トランクピストン機関でピストンを油冷却する方法には、いくつかの方式があります。

代表的なものは次のとおりです。

方式概要
油ジェット冷却潤滑油をピストン天井部に噴き付けて冷却する
シェーカー形冷却ピストン内部の油だまりの油を、ピストンの上下運動で揺らして冷却する
コレット形冷却連接棒小端部からの油を集油装置でピストン内部に導く
蛇管鋳込み形冷却ピストン頂部に鋳込まれた蛇管に油を通して冷却する

試験では、方式名だけでなく、どのように油をピストンに送るかも問われます。

クロスヘッド機関のピストン冷却管

クロスヘッド機関では、ピストンは運動部であり、冷却管の一部は固定部です。

そのため、動くピストンと固定された冷却管を、どのように接続するかが問題になります。

代表的な接続方法は次のとおりです。

接続方法内容
入れ子管テレスコピックチューブとも呼ばれる
振動継手スイングアームとも呼ばれる
関節管アーティキュレーティッドパイプとも呼ばれる

これらは、名称だけを覚えるのではなく、運動部と固定部を接続するための構造として理解すると覚えやすくなります。

試験で押さえるポイント

今回のテーマでは、次の点を押さえておくとよいと思います。

テーマ押さえるポイント
クロスヘッド形滑り金、ガイド、側圧、スタフィングボックス
タイロッド利点、欠点、細目ねじ、振止め、片締めの害
ピストン冷却油冷却の利点・欠点、各冷却方式、冷却管の接続方法

特に、クロスヘッド形では「側圧をどこで受けるか」、タイロッドでは「なぜ必要か」、ピストン冷却では「清水冷却と油冷却の違い」を意識すると、理解しやすくなります。

実船では

実船では、これらの知識は単なる試験対策ではありません。

タイロッドの緩みや締付け不良は、機関のひずみや振動、軸受の異常につながる可能性があります。

また、ピストン冷却に異常があると、ピストンの過熱、潤滑油の劣化、焼付きなどの重大な故障につながることがあります。

試験問題では短い文章で問われますが、実際には、機関を安全に運転するための基本的な考え方につながっています。

おわりに

今回は、ディーゼル機関の基本構造として、クロスヘッド形、タイロッド、ピストン冷却について整理しました。

この分野は、ディーゼル機関の入口にあたる部分です。

最初は用語が多く感じるかもしれませんが、次のように考えると整理しやすくなります。

  • クロスヘッド形は、側圧をどう受けるか
  • タイロッドは、機関全体をどう締め付けるか
  • ピストン冷却は、高温になるピストンをどう冷やすか

次回は、ディーゼル機関の中でも出題の多い、シリンダライナとピストンリングについて整理します。


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