はじめに
前回は、クランク軸・連接棒・主軸受について整理しました。
今回は、ディーゼル機関の出力や燃焼状態に大きく関係する、過給機・空気冷却器・オーバーラップについて整理します。
ディーゼル機関では、燃料を燃やすために空気が必要です。
同じ大きさのシリンダでも、より多くの空気を送り込むことができれば、より多くの燃料を燃焼させることができ、出力を高めることができます。
このために用いられるのが、過給機です。
また、過給機で圧縮された空気は温度が上がるため、その空気を冷却するために空気冷却器が用いられます。
さらに、四サイクル過給機関では、吸気弁と排気弁が同時に開いている時間、つまり弁重なり(オーバーラップ)も重要になります。
過給とは
過給とは、シリンダ内へ空気を圧力をかけて送り込むことです。
自然に吸い込む空気だけではなく、過給機によって圧縮した空気をシリンダへ送り込むことで、燃焼に使える空気量を増やします。
空気量が増えれば、より多くの燃料を燃焼させることができるため、機関の出力を大きくすることができます。
船舶用ディーゼル機関では、排気ガスのエネルギを利用してタービンを回し、そのタービンで圧縮機を回す排気タービン過給機がよく用いられます。
排気タービン過給機の考え方
排気タービン過給機は、簡単にいうと、排気ガスの力で空気を圧縮する装置です。
整理すると、次のような流れになります。
| 流れ | 内容 |
|---|---|
| 1 | シリンダから高温・高圧の排気ガスが出る |
| 2 | 排気ガスがタービンを回す |
| 3 | タービンと同軸の圧縮機が回る |
| 4 | 圧縮機が外気を吸い込み、圧縮する |
| 5 | 圧縮された空気が空気冷却器を通り、シリンダへ送られる |
排気タービン過給機は、捨てられるはずの排気ガスのエネルギを利用する点が特徴です。
そのため、機関の出力向上だけでなく、熱効率の向上にも関係します。
空気冷却器の役割
過給機で空気を圧縮すると、空気の温度が上がります。
温度が高い空気は密度が小さく、同じ体積でも含まれる空気量が少なくなります。
そこで、過給機で圧縮した空気を空気冷却器で冷やします。
空気を冷却すると、空気の密度が大きくなり、シリンダ内へより多くの空気を送り込むことができます。
つまり、空気冷却器は、過給の効果を高めるために重要な装置です。
高温多湿の海域での注意
空気冷却器では、単に空気を冷やせばよいというものではありません。
高温多湿の海域を航行している場合、大気中の水分が多いため、空気を冷やしすぎると、掃気室内に水滴が発生することがあります。
資料では、大気の湿度が高いときには、吸気温度を吸気圧に見合った露点以上に保つため、空気冷却器の出口空気温度、つまり掃気温度を調節する必要があるとされています。露点以下まで冷却すると、掃気室内に大量の水滴が発生し、それが空気とともにシリンダへ流入して、シリンダライナやピストンリングの異常摩耗、燃焼不良の原因となります。
整理すると、次のようになります。
| 状態 | 起こること |
|---|---|
| 空気を適切に冷却する | 空気密度が増し、燃焼に有利になる |
| 冷やしすぎる | 水滴が発生し、シリンダへ入るおそれがある |
| 水滴がシリンダへ入る | ライナ・リングの異常摩耗や燃焼不良の原因となる |
試験では、高温多湿のときは、冷やしすぎによる水滴発生に注意すると整理しておくとよいです。
過給機出口の給気圧が高い場合
試験では、機関の負荷が同じであるのに、過給機出口の給気圧が標準値より高い場合の原因が問われます。
給気圧が高いというと、一見よい状態のように思えるかもしれません。
しかし、負荷が同じなのに標準値より高い場合は、機関や過給機に異常がある可能性があります。
資料では、主な原因として次のようなものが挙げられています。
| 原因 | 内容 |
|---|---|
| 排気弁の漏れ・固着気味 | 燃焼ガスが漏れ、排気の圧力・温度が高くなり、タービン回転速度が増加する |
| 燃料噴射弁の故障 | 点火遅れやあと燃えが大きくなり、排気圧力・温度が高くなる |
| 空気冷却器の汚れ・冷却水温度上昇 | 冷却能力が下がり、給気温度が上昇する |
| タービンノズルの異常 | 異物が引っかかる、入口や出口端がつぶれるなどで異常を生じる |
ここでは、給気圧だけを見るのではなく、排気温度、燃焼状態、空気冷却器の状態、タービンノズルの状態を合わせて考えることが大切です。
軸流式タービンの固形物洗浄
排気タービン過給機では、タービン側に汚れが付着することがあります。
タービンに汚れが付着すると、効率が低下したり、回転状態に影響したりするおそれがあります。
資料では、運転中に行う軸流式タービンの固形物洗浄について、水洗浄と比べた利点が整理されています。
| 固形物洗浄の利点 | 内容 |
|---|---|
| 機関を減速することなく洗浄できる | 運転を続けながら対応できる |
| 洗浄時間が短い | 固形物注入は数秒で終わる |
| 熱衝撃が少ない | ガス入口ケーシングなどへのダメージが少ない |
水洗浄では、温度差による熱衝撃に注意が必要です。
一方、固形物洗浄では、短時間で洗浄でき、熱衝撃による影響が比較的小さいことが利点です。
サージングとは
過給機の圧縮機側で重要なのが、サージングです。
資料では、遠心圧縮機に生じるサージングについて、送出し空気圧と空気量の関係がある範囲を外れると、空気圧と空気量が周期的に激しく変動する現象と整理されています。また、異音を発し、ときには送出し空気の逆流を生じ、回転軸に異常振動を起こすとされています。
つまり、サージングは、単なる圧力変動ではありません。
圧縮機の運転状態が不安定になり、空気の流れが乱れ、異音や振動を伴う危険な現象です。
サージングが起こる場合
サージングが起こる場合として、資料では次のような原因が挙げられています。
| 原因 | 内容 |
|---|---|
| 掃・排気口の汚れ | 通路が狭くなり、空気の流れが悪くなる |
| 空気冷却器の汚損 | 空気通路が狭くなる |
| 圧縮機吸入フィルタの汚れ | 吸入空気量が不足する |
| タービンノズルやインペラの汚れ | 過給機の作動状態が悪くなる |
| 急な出力低下 | 給気圧が上がり、圧縮機の作動範囲を外れる |
| 並行運転中の容量差 | 一方の過給機の回転が下がり、容量差が生じる |
| 負荷の急変 | 空気量と圧力の関係が急に変わる |
| 燃料噴射系統の異常 | 燃焼状態が乱れ、排気エネルギに影響する |
サージングは、過給機だけの問題に見えるかもしれません。
しかし、原因を見ると、掃気・排気通路、空気冷却器、吸入フィルタ、燃料噴射系統、負荷変動など、機関全体の状態と関係しています。
サージングを理解するポイント
サージングは、次のように整理すると分かりやすいです。
圧縮機が送り出そうとする空気量と、機関側が受け取れる空気量のバランスが崩れたときに起こる。
たとえば、空気冷却器が汚れて空気が通りにくくなると、圧縮機が空気を送ろうとしても、うまく流れません。
その結果、圧力と流量が周期的に変動し、異音や振動が発生します。
試験では、サージングの定義と発生原因をセットで押さえておく必要があります。
オーバーラップとは
次に、四サイクル過給ディーゼル機関で重要なオーバーラップです。
オーバーラップとは、吸気弁と排気弁が同時に開いている期間のことです。
四サイクル機関では、排気行程の終わりから吸気行程の始めにかけて、排気弁がまだ開いているうちに吸気弁が開き始める時期があります。
この弁重なりの期間がオーバーラップです。
過給機関ではオーバーラップを大きくする
試験では、弁重なり、つまりオーバーラップは、無過給機関と過給機関ではどちらが大きいかが問われます。
答えは、過給機関の方が大きいです。
オーバーラップを大きくすることで、圧力の加わった空気がシリンダを通り抜け、排気を十分に追い出すとともに、排気弁、燃焼室、ピストンを冷却して各部の熱応力を減らします。
つまり、過給機関でオーバーラップを大きくする理由は、次の2つです。
| 理由 | 内容 |
|---|---|
| 残留ガスを追い出す | 圧力のある新気でシリンダ内の排気を押し出す |
| 各部を冷却する | 排気弁、燃焼室、ピストンの熱負荷を減らす |
この部分は、単に「過給機関の方がオーバーラップが大きい」と暗記するだけでは不十分です。
圧力のある新気を利用して、排気を追い出し、同時に冷却すると理解すると覚えやすくなります。
オーバーラップを大きくした場合のピストン頂部
オーバーラップを大きくすると、吸気弁や排気弁の開いている時期が変わります。
そのため、ピストン頂部と弁が干渉しないように、ピストン頂部に設ける弁の逃がしを大きくする必要があります。
弁重なりを大きくした場合には、ピストン頂部に設ける弁の逃がしを大きくします。
ここでは、オーバーラップとピストン形状が関係する点に注意が必要です。
四サイクル機関が過給しやすい理由
四サイクル機関が二サイクル機関に比べて過給しやすい理由も、過去問で問われています。
四サイクル機関では吸気弁や排気弁の開閉時期の変更が比較的容易であり、オーバーラップを大きくして新鮮な空気を押し込み、排気を追い出すことができます。一方、二サイクル機関では、掃気・排気ポートの高さの変更や、自動掃気弁・管制弁などを取り付ける必要があるため、四サイクル機関の方が過給しやすいと整理されています。
整理すると、次のようになります。
| 機関 | 過給との関係 |
|---|---|
| 四サイクル機関 | 吸気弁・排気弁の開閉時期を変更しやすい |
| 二サイクル機関 | 掃気・排気ポートの高さ変更などが必要になりやすい |
四サイクル機関では、弁の開閉時期を調整することで、過給に適したガス交換を行いやすいということです。
過給機関で燃料消費率が少ない理由
四サイクル過給ディーゼル機関では、無過給機関と比べて燃料消費率が少ない理由も問われます。
過給機関は平均有効圧が増し、それに伴って機械効率が上昇するため、燃料消費率がよくなります。
つまり、過給により同じ機関でより大きな出力を得やすくなり、機械損失に対する有効出力の割合が改善されるという考え方です。
動圧過給方式と排気管の群分け
四サイクル過給ディーゼル機関では、動圧過給方式に関する問題もあります。
動圧過給方式の場合、排気弁を2〜4群に分け、それぞれ過給機へ導く理由が問われます。
この考え方は、排気の圧力波を有効に利用するためです。
各シリンダから出る排気を適切に分けることで、排気干渉を避け、タービンへ有効に排気エネルギを送ることができます。
また、点火順序が 1-5-3-6-2-4 の6シリンダ機関で、排気管を2群に分ける問題もあります。
この場合は、資料上では 1・2・3 の群 と 4・5・6 の群 に分ける形で整理されています。
試験で押さえるポイント
今回のテーマでは、次の点を押さえておくとよいと思います。
| テーマ | 押さえるポイント |
|---|---|
| 過給 | 空気を圧縮してシリンダへ送り込み、燃焼に使える空気量を増やす |
| 排気タービン過給機 | 排気ガスのエネルギでタービンを回し、圧縮機を駆動する |
| 空気冷却器 | 圧縮された空気を冷却し、空気密度を高める |
| 高温多湿時の注意 | 冷やしすぎると水滴が発生し、ライナ・リングの異常摩耗や燃焼不良の原因となる |
| 給気圧が高い場合 | 排気弁漏れ、燃料噴射弁故障、空気冷却器汚れ、タービンノズル異常などを疑う |
| サージング | 圧力と空気量が周期的に激しく変動し、異音・逆流・異常振動を生じる現象 |
| サージング原因 | 通路汚れ、空気冷却器汚損、フィルタ汚れ、負荷急変、燃料噴射系統異常など |
| オーバーラップ | 過給機関の方が大きい。残留ガス排出と冷却に役立つ |
| 弁の逃がし | オーバーラップを大きくすると、ピストン頂部の弁の逃がしを大きくする必要がある |
特に、サージングとオーバーラップは、言葉だけでは分かりにくい分野です。
サージングは、圧縮機の空気の流れが不安定になる現象。
オーバーラップは、圧力のある新気で排気を追い出し、各部を冷却するために大きくする。
このように整理しておくと、理解しやすくなります。
実船では
実船では、過給機や空気冷却器の状態は、機関の燃焼状態、排気温度、出力、燃料消費率に大きく影響します。
過給機の汚れ、空気冷却器の汚損、吸入フィルタの詰まりなどがあると、空気量が不足したり、サージングが発生したりするおそれがあります。
また、高温多湿の海域では、空気冷却器で冷やしすぎると掃気中に水滴が発生し、シリンダライナやピストンリングの異常摩耗につながる可能性があります。
過給機の音、振動、給気圧、排気温度、掃気温度などは、日常的に注意しておくべき重要な運転情報です。
おわりに
今回は、過給機・空気冷却器・オーバーラップについて整理しました。
ポイントは、次の3つです。
- 過給機は、排気ガスのエネルギを利用して空気を圧縮し、シリンダへ多くの空気を送る装置である
- 空気冷却器は、圧縮された空気を冷やして密度を高めるが、高温多湿時には水滴発生に注意が必要である
- 過給機関では、オーバーラップを大きくして、残留ガスを追い出し、排気弁・燃焼室・ピストンを冷却する
過給は、単に出力を上げるための仕組みではなく、燃焼、冷却、排気、機関効率と深く関係しています。
次回は、ディーゼル機関の理論分野として、サバテサイクル・出力率・燃料消費率について整理します。
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