はじめに

前回は、吸気弁・排気弁・バルブローテータについて整理しました。今回は、ディーゼル機関の運動部と軸受に関係する、クランク軸・連接棒・主軸受について整理します。ディーゼル機関では、シリンダ内で発生した燃焼ガスの力がピストンに作用し、その力が連接棒を通じてクランク軸へ伝えられます。クランク軸は、その往復運動を回転運動に変える重要な部品です。
この部分に不具合があると、

  • 軸受の発熱
  • メタルの摩耗・焼損
  • クランク軸の曲げ応力増加
  • クランクアーム開閉量の異常
  • 振動の増加
  • クランク軸や軸受の損傷

などにつながるおそれがあります。試験では、連接棒の形状、連接棒の長さとクランク半径の比、連接棒中心線の不正、主軸受の構造、主軸受メタルの損傷原因、クランク室点検、クランクアーム開閉量などが問われます。

連接棒の役割

連接棒は、ピストンとクランク軸をつなぐ部品です。ピストンに作用した燃焼ガスの力をクランクピンへ伝え、クランク軸を回転させます。トランクピストン形機関では、ピストンとクランク軸が連接棒によって直接つながっています。
そのため、連接棒には、

  • 燃焼ガス圧による大きな力
  • ピストンの往復運動による慣性力
  • 連接棒の傾きによる側圧
  • 軸受部の摩耗や発熱

などが関係します。
単に「ピストンとクランクをつなぐ棒」と覚えるのではなく、力を伝えながら、往復運動を回転運動に変えるための重要部品として理解することが大切です。

連接棒大端部の形状

トランクピストン形ディーゼル機関の連接棒では、大端部の形状が問われることがあります。
代表的な形状は、次のとおりです。

形状概要
フォークエンド形大端部が二股状になっている形
Tエンド形大端部がT字状に分割される形
セレーション形斜め割り形とも呼ばれ、合わせ面にセレーションを設ける形

試験では、形状名を答えさせる問題や、略図を描いて示す問題があります。図を描く場合には、精密な機械図でなくても、大端部がどのように分割されているかが分かるように示せばよいと思います。

連接棒の長さとクランク半径の比

連接棒の長さを l、クランク半径を r とすると、l/r の比が問われることがあります。この比を大きくすると、連接棒は長くなります。
その結果、機関の高さと重量が増します。

項目内容
l/r の目安約4倍
比を大きくした場合機関の高さと重量が増す

連接棒を長くすると、運動上は有利な面もありますが、船舶用機関では機関全体の高さや重量も重要です。
そのため、試験ではまず、l/r は約4倍、比を大きくすると機関が高く重くなると整理しておくとよいです。

連接棒の中心線が不正となる場合

連接棒では、中心線の正しさも重要です。
連接棒の中心線が不正になると、ピストンや軸受に無理な力がかかり、摩耗、発熱、焼付きなどの原因となることがあります。連接棒の中心線が不正となる場合として、次のようなものが挙げられます。

原因内容
上下メタルが平行でない連接棒上下メタルの当たりが正しくない
メタルのすり合わせ不良軸受面の当たりが不適切になる
クランクピンの平行不良クランクピンがクランク軸中心線と平行でない
スラスト軸受の摩耗クランクの位置が変わる
シリンダライナ中心線の不良ピストン運動の中心が狂う

これらは、いずれも「連接棒だけの問題」ではありません。
クランクピン、軸受、スラスト軸受、シリンダライナなど、周囲の部品の状態によって、連接棒の中心線にも影響が出ます。

主軸受とは

主軸受は、クランク軸を支える軸受です。クランク軸には、燃焼ガス圧、往復部の慣性力、回転部の力など、さまざまな力が作用します。主軸受は、そのクランク軸を適切な位置で支え、滑らかに回転させる役割を持っています。主軸受に不具合があると、クランク軸の軸心が狂い、発熱、摩耗、焼損、振動、クランクアーム開閉量の異常などにつながります。

基準軸受とは

主軸受の中には、基準軸受と呼ばれるものがあります。基準軸受は、両端につばを付け、表面に軸受メタルを張り、スラストを受ける構造となっており、ほかの主軸受は、つばを付けないか、つばがあっても軸受メタルを貼り付けない構造となっております。また、基準軸受は、はずみ車に一番近い主軸受とされています。
整理すると、次のようになります。

項目内容
基準軸受の構造両端につばを付け、表面に軸受メタルを張る
役割スラストを受ける
設置位置はずみ車に一番近い主軸受
ほかの主軸受つばを付けない、またはつばがあってもメタルを貼らない

基準軸受は、単にクランク軸を支えるだけでなく、軸方向の位置決めにも関係する軸受と考えると理解しやすいです。

主軸受の油溝

主軸受では、潤滑油を十分に供給することが重要です。
主軸受キャップ上部から注油する場合、上メタルの油溝の大きさは、クランクピン軸受、ピストンピン軸受、ピストン冷却に必要な油量を供給できるように決められます。つまり、主軸受の油溝は、主軸受だけの潤滑を考えればよいわけではありません。下流側へ送られる潤滑油量も考慮する必要があります。

油を必要とする部分内容
主軸受クランク軸を支える軸受
クランクピン軸受連接棒大端部の軸受
ピストンピン軸受連接棒小端部側の軸受
ピストン冷却ピストンを冷却するための油

油溝が不適切であれば、油膜形成が悪くなったり、必要な油量が供給できなくなったりします。

油溝を軸方向に設けない理由

軸受の中では、軸の回転によって油膜が形成され、その油膜の圧力で軸を支えています。油溝を軸方向に設けると、油膜の圧力曲線が分断され、油膜の圧力が大きく低下します。その結果、軸を支える力が弱くなり、有害です。一方、油溝を円周方向に設ける場合には、軸心に直角ではなく、斜めに設けることがあります。これは、油溝に対応する軸の部分だけが摩耗せずに段がつき、油膜ができにくくなるのを防ぐためです。

軸受裏金と台板の密着

主軸受では、軸受裏金の背面と台板との密着も重要です。密着が悪いと、熱の伝導が悪くなり、焼付きの原因となることがあります。また、軸受に荷重がかかったとき、裏金が変形し、メタルに亀裂を生じたり、はがれたりすることがあります。整理すると、次のようになります。

密着不良による害内容
熱伝導不良熱が逃げにくく、焼付きの原因となる
裏金の変形荷重を受けたときに裏金が変形する
メタルの亀裂変形や荷重によりメタルに亀裂を生じる
メタルの剥離メタルが裏金からはがれることがある

主軸受では、油膜だけでなく、軸受そのものの取付け状態も重要です。

主軸受メタルに割れや剥離を生じる原因

主軸受メタルの割れや剥離は、重大な不具合につながります。
その原因として次のように整理できます。

原因内容
軸受メタルの材質不良材料そのものに問題がある
鋳込み不良裏金との密着が悪い
軸心不良過大な荷重が作用する
隙間過大軸とメタルの隙間が大きく、衝撃力が増す
油溝の形状・加工不良油膜形成や荷重支持に悪影響を与える
激しいディーゼルノック・過回転異常な衝撃や荷重がかかる

ここでは、原因を大きく3つに分けると覚えやすいです。

  1. 材料・製作上の問題
  2. 軸心・すき間・油溝など取付けや形状の問題
  3. 運転状態による過大な衝撃や荷重の問題

クランク室の点検

ディーゼル機関の運転終了後、クランク室内部を点検する場合、次のような事項が挙げられます。

点検項目内容
各軸受の発熱主軸受、クランクピン軸受、クロスヘッドピン軸受、ガイドシューなど
ボルト・ナットの緩み各軸受締付ボルト、その他ボルトナット類
ライナ内面焼付きや掻き傷の有無
ピストンロッド表面掻き傷の有無
潤滑油の状態汚れ、メタル粉、金属粉、水分の有無
駆動装置歯車装置、直結ポンプ駆動装置、チェーン駆動装置の異常
注油管ピストン冷却油ノズル、テレスコピック管などの緩みや接触
クランクケース底部メタル片など異物の有無

クランク室点検では、単に「中を見ればよい」というものではありません。発熱、緩み、傷、油の汚れ、異物、注油管の状態などを、順番に確認する必要があります。特に、メタル粉や金属粉、メタル片は、軸受損傷の重要な手がかりになります。

クランクアーム開閉量とは

クランク軸の状態を確認するうえで、クランクアーム開閉量も重要です。クランクアーム開閉量は、クランク軸のたわみや軸心の狂いを判断するために測定されます。開閉量が大きくなると、クランク腕には回転ごとに繰り返される正負の曲げ応力が増します。その応力により、き裂はクランク腕とクランクピンの付け根付近に発生し、軸心に垂直方向、またはクランク腕の長さ方向に垂直な方向へ進行します。

開閉量を計測するときに記録すること

クランクアーム開閉量を計測する場合、計測値だけでなく、次のような事項も記録します。

記録事項内容
計測日付いつ測定したか
場所港名など
計測者氏名誰が測定したか
気温機関室温度など
貨物の積付け状況喫水など
その他特に気が付いた事項

開閉量は、機関だけでなく、船体の状態や積付け状況によっても影響を受けることがあります。そのため、計測値だけでなく、測定時の条件を記録しておく必要があります。

開閉量の許容限度

開閉量の許容限度は、一般にストロークを基準として決められるとされています。また、ストロークの1/10000なら安全であるが、2/10000になると修正すると整理されています。高速機関では、クランクデフレクションによる材料疲労が進みやすいため、低速機関よりも基準を小さくします。整理すると、次のようになります。

項目内容
許容限度の基準ストロークを基準とする
目安1/10000なら安全、2/10000になると修正
高速機関の基準低速機関より小さくする
理由材料疲労が進みやすいため

ここは、数値だけを覚えるのではなく、開閉量が大きいほど、クランク軸に繰返し曲げ応力が増すという考え方で理解するとよいです。

試験で押さえるポイント

今回のテーマでは、次の点を押さえておくとよいと思います。

テーマ押さえるポイント
連接棒大端部フォークエンド形、Tエンド形、セレーション形
l/r の比約4倍。大きくすると機関の高さと重量が増す
連接棒中心線の不正上下メタル、すり合わせ、クランクピン、スラスト軸受、ライナ中心線が関係する
基準軸受両端につばを付け、スラストを受ける。はずみ車に一番近い主軸受
主軸受の油溝必要油量、油膜圧力、油溝の方向が重要
主軸受メタル損傷材質不良、鋳込み不良、軸心不良、隙間過大、油溝不良、ノック・過回転
クランク室点検発熱、緩み、傷、油の汚れ、異物を確認する
クランクアーム開閉量曲げ応力、き裂、許容限度、測定条件の記録

特に、主軸受やクランクアーム開閉量は、単独の知識ではなく、クランク軸を正しい位置で支え、異常な曲げや摩耗を防ぐための知識として整理すると理解しやすくなります。

実船では

実船では、連接棒、クランク軸、主軸受の異常は、重大な機関事故につながる可能性があります。たとえば、主軸受の潤滑不良やメタル損傷を放置すると、発熱、焼付き、クランク軸損傷につながるおそれがあります。また、クランク室内に金属粉やメタル片がある場合には、どこかで異常摩耗や損傷が進んでいる可能性があります。クランクアーム開閉量の測定も、単なる記録作業ではありません。クランク軸のたわみや軸心の狂いを早期に把握し、重大な損傷を防止するための点検です。試験では短い記述問題として出題されますが、実務では機関の信頼性を保つうえで非常に重要な内容です。

おわりに

今回は、クランク軸・連接棒・主軸受について整理しました。

ポイントは、次の3つです。

  • 連接棒は、ピストンの力をクランク軸へ伝える重要部品である
  • 主軸受は、クランク軸を支え、軸心を正しく保つために重要である
  • クランク室点検とクランクアーム開閉量の測定は、軸受やクランク軸の異常を早期に発見するために重要である

この分野は、構造、潤滑、点検、損傷防止がつながっています。

次回は、燃焼に必要な空気を多く送り込むための、過給機・空気冷却器・オーバーラップについて整理します。


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