はじめに

前回は、過給機・空気冷却器・オーバーラップについて整理しました。
今回は、ディーゼル機関の理論分野として、サバテサイクル・出力率・燃料消費率について整理します。
この分野は、構造部品の問題と比べると、少し理論的です。そのため、苦手に感じる方も多いと思います。しかし、試験で問われる内容は、ある程度決まっています。特に大切なのは、次の3つです。

  • サバテサイクルの p-V 線図
  • 出力率の意味
  • 燃料消費率の求め方と読み方

これらは、ディーゼル機関の性能を理解するための基本です。難しい式を全部覚えるというよりも、まずは「何を表しているのか」を理解することが大切です。

サバテサイクルとは

ディーゼル機関の理論サイクルとして、複合サイクルがあります。これは、一般にサバテサイクルとも呼ばれます。サバテサイクルは、定容燃焼と定圧燃焼を組み合わせた考え方です。ディーゼル機関では、燃料が一瞬で完全に燃えるわけではありません。燃料の一部は、ほぼ体積が一定の状態で燃焼し、残りは圧力がほぼ一定の状態で燃焼すると考えます。そのため、サバテサイクルでは、

  • 定容燃焼
  • 定圧燃焼

の両方が出てきます。

p-V線図で見る仕事量

サバテサイクルは、圧力と体積の関係を示す p-V線図 で表されます。p-V線図では、縦軸に圧力、横軸に体積をとります。この線図で重要なのは、サイクル線で囲まれた面積が仕事量を表すということです。つまり、線図の面積が大きいほど、1サイクルで取り出せる仕事が大きいと考えることができます。
試験では、

p-V線図において、仕事量はどのように示されるか

という形で問われることがあります。
この場合は、

サイクル線によって囲まれた面積で示される

と答えます。

サバテサイクルの各過程

サバテサイクルでは、主に次のような過程で考えます。

区間内容
1→2圧縮
2→3定容燃焼
3→4定圧燃焼
4→5膨張
5→1放熱

試験では、特に次の点が大切です。

項目区間
受熱2→3、3→4
放熱5→1
仕事量1→2→3→4→5→1で囲まれた面積

定容燃焼は、体積がほぼ一定の状態で燃焼する部分です。

定圧燃焼は、圧力がほぼ一定の状態で燃焼する部分です。

この2つを合わせて考えるのが、サバテサイクルの特徴です。

圧縮比・締切比・最高圧力比

サバテサイクルでは、次の3つの比がよく出てきます。

名称表し方意味
圧縮比V1 / V2圧縮前の体積と圧縮後の体積の比
締切比V4 / V2燃料噴射の締切点まで進んだときの体積と隙間容積の比
最高圧力比p3 / p2最高圧力と圧縮終わり圧力の比

ここで、V1、V2、V4、p2、p3 は、p-V線図上の記号です。

図と合わせて覚えると分かりやすくなります。特に締切比は、言葉だけでは少し分かりにくいです。締切比は、燃料噴射の締切点、つまり燃料の噴射が終わる点までピストンが進んだときの体積と、隙間容積との比です。

締切比を小さくするとは

締切比を小さくするということは、燃料噴射を短時間で終わらせることを意味します。燃料噴射を短時間で終わらせると、定圧燃焼の部分を少なくし、なるべく定容燃焼に近づけることができます。整理すると、次のようになります。

項目考え方
締切比を小さくする燃料噴射時間を短くする
燃焼の方向定容燃焼に近づける
少なくしたい燃焼定圧燃焼
目的熱効率をよくする

試験では、

締切比を小さくすることは、燃料の噴射及び燃焼をどのようにすることか

という形で問われることがあります。

この場合は、

燃料を短時間に噴射し、なるべく定容のもとで燃焼させ、定圧のもとでの燃焼を少なくする

と整理しておくとよいです。

熱効率を高めるには

サバテサイクルで熱効率を高めるには、次のように整理できます。

項目熱効率を高める方向
圧縮比大きくする
最高圧力比大きくする
締切比1に近づける

これを燃焼の言葉で言い換えると、

  • 燃料噴射時間を短くする
  • 定容燃焼に近づける
  • 定圧燃焼を少なくする

ということになります。この部分は、穴埋め問題で繰り返し出題されています。
覚え方としては、

圧縮比と最高圧力比は大きく、締切比は1に近く

と押さえるとよいと思います。

機械効率とは

次に、効率について整理します。

ディーゼル機関では、シリンダ内で発生した出力が、そのまますべて軸出力になるわけではありません。

機関内部では、摩擦や補機の駆動などによって、一部の出力が失われます。

そのため、図示出力と軸出力には差があります。

名称意味
図示出力シリンダ内で発生した理論上の出力
軸出力実際に軸から取り出せる出力
機械損失図示出力と軸出力との差

機械効率は、図示出力に対して、どれだけ軸出力として取り出せるかを表す考え方です。

低負荷で機械効率が低くなる理由

機械効率は、全負荷のときよりも低負荷のときの方が低くなります。
その理由は、同じ機関では、負荷が変わっても摩擦損失の量が大きく変わらないためです。
低負荷では、出力そのものが小さくなります。
しかし、摩擦損失はそれほど小さくなりません。
そのため、出力に対して摩擦損失の占める割合が大きくなり、機械効率が低くなります。

整理すると、次のようになります。

状態考え方
全負荷出力が大きく、摩擦損失の割合は小さい
低負荷出力が小さく、摩擦損失の割合が大きい
結果低負荷では機械効率が低くなる

この考え方は、燃料消費率の理解にもつながります。

図示出力と軸出力の差はどこで失われるか

図示出力と軸出力の差は、主に次のようなところで失われます。

損失内容
補機類の駆動損失冷却水ポンプ、潤滑油ポンプ、燃料ポンプなど
摩擦損失ピストンリング、ピストン、軸受などの摩擦
風損クランク機構やはずみ車の空気摩擦
弁駆動損失吸気弁・排気弁を動かすための出力

シリンダ内で発生した力は、軸に伝わるまでの間に、さまざまな形で失われます。

そのため、機関性能を考えるときには、燃焼だけでなく、摩擦や補機の損失も考える必要があります。

出力率とは

次に、出力率です。出力率は、ディーゼル機関の出力の大きさを比較するための指標です。出力率は、次の2つの積で表されます。

出力率 = 平均有効圧力 × 平均ピストン速度

記号で表すと、

出力率 = Pe × Vpm

となります。

ここで、

記号意味
Pe平均有効圧力
Vpm平均ピストン速度

です。出力率は、単位ピストン面積当たりの機関出力に比例する値です。また、燃焼室壁の熱負荷を代表する数値としても扱われます。

平均ピストン速度とは

平均ピストン速度は、ピストンが平均してどれくらいの速さで動いているかを表します。ピストンは、上死点と下死点の間を往復します。そのため、平均ピストン速度は、行程と回転速度に関係します。平均ピストン速度が大きいということは、ピストンが速く動いているということです。ピストン速度が大きくなると、摩擦、慣性力、潤滑、冷却などにも影響します。

四サイクル機関と二サイクル機関の出力率比較

四サイクル機関と二サイクル機関では、作動の仕方が違います。二サイクル機関は1回転ごとに1回の膨張行程があります。一方、四サイクル機関は2回転に1回の膨張行程です。そのため、四サイクル機関と二サイクル機関の出力率を同列に比較する場合には、四サイクル機関の平均有効圧を半分にして考えます。

機関膨張行程
二サイクル機関1回転に1回
四サイクル機関2回転に1回

ここでは、単に「半分」と覚えるだけでなく、膨張行程の回数が違うためと理解すると分かりやすいです。

燃料消費率とは

燃料消費率は、機関の経済性を表す重要な指標です。一般に、一定の出力を得るために、どれだけの燃料を消費するかを示します。燃料消費率が小さいほど、同じ出力を得るために必要な燃料が少ないということになります。運転中の燃料消費率を求めるには、次の2つが必要です。

必要な項目内容
燃料消費量 G一定時間に消費した燃料の量
軸出力 L機関から実際に取り出される出力

基本的には、

燃料消費率 = 燃料消費量 G ÷ 軸出力 L

という考え方です。単位は、扱う単位系によって異なりますが、試験では、燃料消費量と軸出力が必要であることをまず押さえます。

燃料消費量の求め方

燃料消費量は、燃料タンクの目盛や流量計によって求めます。ただし、燃料油は温度によって体積が変わります。そのため、容積消費量だけでなく、燃料油の比重を確認し、標準温度での比重に換算して燃料消費量を求めます。整理すると、次の流れになります。

手順内容
1燃料タンクの目盛または流量計で容積消費量を求める
2測定温度における燃料油の比重を測定する
315℃における比重に換算する
4容積消費量に比重を乗じて燃料消費量を求める

燃料消費率を正確に求めるには、燃料の量だけでなく、温度と比重にも注意する必要があります。

軸出力の求め方

軸出力は、軸出力計が装備されている場合には、軸出力計で計測します。軸出力計がない場合には、プロペラ軸のねじりモーメントと回転速度から求めます。また、係留中などで軸出力を直接求めにくい場合には、インジケータ線図から図示出力を求め、機械効率を乗じて軸出力を求める考え方もあります。

ここでは、細かい計算式よりも、

  • 軸出力計で測る
  • 軸のねじりと回転数から求める
  • 図示出力と機械効率から求める

という考え方を押さえておくとよいです。

性能曲線に示されるもの

性能曲線、または負荷試験曲線には、燃料消費率だけでなく、機関の運転状態を判断するためのさまざまな項目が示されます。主なものは、次のとおりです。

項目
燃料消費量
排気温度
機関回転数
燃焼効率
過給機回転速度
正味平均有効圧
シリンダ内最高圧
シリンダ内圧縮圧
給気圧・掃気圧
燃料噴射ポンプのラック目盛
軸出力

性能曲線は、単に燃料消費率を見るためだけのものではありません。

負荷が変化したときに、機関の各状態がどのように変化するかを確認するためのものです。

低い回転速度で燃料消費率が大きくなる理由

定格回転速度よりも低い回転速度では、定格出力の場合より燃料消費率が大きくなることがあります。主な理由は、機械効率と燃焼状態にあります。低速・低負荷では、出力に対して摩擦損失の割合が大きくなります。また、燃焼状態が悪くなりやすく、燃料の持つエネルギを有効に出力へ変えにくくなります。

そのため、同じ出力を得る場合でも、燃料消費率が悪くなることがあります。

整理すると、次のようになります。

原因内容
摩擦損失の割合が大きい低負荷では出力に対する損失の割合が大きい
燃焼状態が悪くなりやすい低速・低負荷では燃焼が不完全になりやすい
熱効率が低下する燃料のエネルギを有効に出力へ変えにくい

燃料消費率は、単に燃料の量だけで決まるものではありません。機関の負荷、回転速度、燃焼状態、機械損失が関係しています。

試験で押さえるポイント

今回のテーマでは、次の点を押さえておくとよいと思います。

テーマ押さえるポイント
サバテサイクル定容燃焼と定圧燃焼を組み合わせた複合サイクル
仕事量p-V線図でサイクル線に囲まれた面積
受熱2→3、3→4
放熱5→1
圧縮比V1 / V2
締切比V4 / V2
最高圧力比p3 / p2
熱効率圧縮比・最高圧力比を大きくし、締切比を1に近づける
機械効率低負荷では摩擦損失の割合が大きくなり低下する
出力率平均有効圧力 × 平均ピストン速度
燃料消費率燃料消費量と軸出力から求める

特に、サバテサイクルでは、圧縮比、締切比、最高圧力比を図と対応させて覚えることが大切です。燃料消費率では、燃料消費量と軸出力が必要という点をまず押さえましょう。

実船では

実船では、サバテサイクルそのものを毎日意識して運転するわけではありません。しかし、燃料噴射時期、燃焼状態、最高圧、排気温度、燃料消費率などは、すべて機関の性能に関係します。燃料消費率が悪化している場合には、

  • 燃焼状態が悪い
  • 過給機や空気冷却器の状態が悪い
  • 燃料噴射装置に不具合がある
  • 機械損失が増えている
  • 運転負荷が適切でない

といった可能性があります。また、性能曲線と実際の運転データを比較することで、機関の状態変化を早く把握できることがあります。理論は、実務から離れたものではありません。機関の状態を数字で見るための基礎になります。

おわりに

今回は、サバテサイクル・出力率・燃料消費率について整理しました。ポイントは、次の3つです。

  • サバテサイクルでは、p-V線図の面積が仕事量を表す
  • 出力率は、平均有効圧力と平均ピストン速度の積で表される
  • 燃料消費率は、燃料消費量と軸出力から求める

この分野は、最初は理論的で難しく感じるかもしれません。しかし、試験で問われる内容は、ある程度決まっています。まずは、p-V線図、出力率、燃料消費率の意味を押さえ、問題文の言葉と結び付けて覚えていきましょう。次回は、ディーゼル機関の性能判断として、インジケータ線図と性能判断について整理します。


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