はじめに

前回は、サバテサイクル・出力率・燃料消費率について整理しました。
今回は、ディーゼル機関の性能判断に関係する、インジケータ線図について整理します。
インジケータ線図は、シリンダ内の圧力変化を図として表したものです。
ディーゼル機関では、外から見ただけでは、シリンダ内で燃焼がどのように行われているかは分かりません。
しかし、インジケータ線図を見ることで、

  • 圧縮圧力
  • 最高圧力
  • 燃焼状態
  • 図示出力
  • 吸排気の圧力変化

などを判断する手がかりになります。
試験では、インジケータ線図の種類、線図から分かること、線図の撮取方法、ディーゼルノック時の線図の特徴などが問われます。

インジケータ線図とは

インジケータ線図とは、インジケータを用いて、シリンダ内の圧力変化を記録した線図です。
機関の運転中、シリンダ内では、吸気、圧縮、燃焼、膨張、排気が繰り返されています。
このときの圧力変化を線図として記録することで、シリンダごとの燃焼状態や出力の状態を確認できます。
インジケータ線図は、機関の「中で何が起きているか」を見るための重要な資料です。
ただし、線図にはいくつかの種類があり、それぞれ何を見るためのものかが違います。

主なインジケータ線図の種類

試験では、主に次の4種類の線図が問われます。

記号線図の名称分かること
A圧力―容積線図、P-V線図、たび形線図そのシリンダで発生した仕事、図示出力
B手引き線図圧縮圧力、最高圧力、燃焼状態
C連続圧力線図最高圧力、圧縮圧力
D弱バネ線図排気・吸気の低圧部分の圧力変化

この4つは、それぞれ目的が違います。
すべてを「インジケータ線図」として一括りにするのではなく、どの線図で何が分かるかを整理して覚えることが大切です。

P-V線図、たび形線図

P-V線図は、圧力と容積の関係を表す線図です。
縦軸に圧力、横軸に容積をとります。
P-V線図は、たび形線図とも呼ばれます。
この線図で重要なのは、線図で囲まれた面積が、そのシリンダで発生した仕事を表すという点です。
この面積から、そのシリンダの図示出力を求めることができます。
試験では、

  • インジケータにより撮取したP-V線図の面積は何を表すか

という形で問われることがあります。
この場合は、

  • 仕事量を表す

と答えます。
「図示平均有効圧を表す」と間違えないように注意が必要です。

P-V線図の直線の長さ

P-V線図では、横方向の長さも問われることがあります。
P-V線図の直線の長さは、ピストンの行程、つまりストロークを示します。
ここは短い問題として出題されやすいところです。

問われる内容答え
P-V線図の直線の長さピストンの行程、ストローク
P-V線図で囲まれた面積そのシリンダで発生した仕事

線図を見るときは、縦軸が圧力、横軸が容積であることを意識すると、直線の長さがストロークを示すことも理解しやすくなります。

手引き線図

手引き線図は、シリンダ内の圧力変化を手で引いて記録する線図です。
手引き線図からは、主に次のことが分かります。

分かること内容
圧縮圧力圧縮終わりの圧力
最高圧力燃焼によって最も高くなった圧力
燃焼状態点火遅れ、圧力上昇、あと燃えなどの傾向

手引き線図は、燃焼状態を見るうえで重要です。

たとえば、あるシリンダだけ最高圧力が高い、圧縮圧力が低い、圧力上昇が急である、といった場合には、燃料噴射、圧縮状態、燃焼状態に問題がある可能性があります。

連続圧力線図

連続圧力線図は、圧力変化を連続的に記録する線図です。

この線図からは、主に次のことを知ることができます。

分かること内容
最高圧力燃焼時に最も高くなる圧力
圧縮圧力燃焼前の圧縮終わり圧力

手引き線図と似ていますが、連続圧力線図は、圧力の変化を連続的に把握するために使われます。
試験では、手引き線図、連続圧力線図、弱バネ線図の違いを区別しておくことが大切です。

弱バネ線図

弱バネ線図は、低圧部分を拡大して記録するための線図です。
通常の線図では、吸気や排気の圧力変化は低圧であるため、細かい変化が分かりにくくなります。
そこで、弱いばねを用いて低圧部分を拡大し、吸気や排気の圧力変化を見やすくします。
弱バネ線図からは、主に次のことが分かります。

分かること内容
排気圧力の変化排気の抜け具合
吸気圧力の変化吸気の入り具合
吸排気系統の状態吸気・排気の圧力変動

弱バネ線図は、燃焼そのものよりも、吸気・排気の状態を見るための線図と考えると分かりやすいです。

線図の撮取方法

インジケータ線図は、正しく撮取しなければ、機関状態を正しく判断できません。
線図を撮取するときは、次のような手順と注意が必要です。

手順内容
1機関始動後、十分に機関が暖まってから行う
2インジケータを取り付ける前に、一度コックを開いてガスを噴出させる
3通路に付着しているカーボンなどを吹き出し、通路のふさがりがないようにする
4インジケータを確実に取り付け、取付け部からガス漏れがないことを確認する
5用紙を取り付け、線図が用紙の中央にくるようインジケータコードの長さを調節する
6線図の採取は手早く行う
7採取後は直ちにインジケータ弁を閉じる
8連続して何枚も撮り、インジケータを過熱したまま使用しない

ここで重要なのは、通路のカーボンを吹き出すことと、インジケータを過熱させないことです。
通路が詰まっていると、正しい圧力変化が記録できません。
また、過熱した状態で続けて使用すると、機器の損傷や測定誤差につながるおそれがあります。

線図を見るときの基本

インジケータ線図を見るときは、いきなり細かい形だけを見るのではなく、まず次の順番で考えると分かりやすくなります。

  1. 圧縮圧力は適正か
  2. 最高圧力は適正か
  3. 圧力上昇は急すぎないか
  4. 燃焼が遅れていないか
  5. 吸排気の圧力変化に異常がないか
  6. 他のシリンダと比べて大きな差がないか

インジケータ線図は、1枚だけを見るよりも、他のシリンダと比較することで異常が分かりやすくなります。
あるシリンダだけ圧縮圧力が低い場合、気密不良や弁漏れ、ピストンリングの状態などが関係している可能性があります。
また、最高圧力が高すぎる場合や、圧力上昇が急な場合には、燃料噴射時期や燃焼状態に注意が必要です。

ディーゼルノックと手引き線図

ディーゼルノックも、手引き線図で特徴が現れます。
ディーゼルノックが発生している場合、正常燃焼と比べて、次のような特徴があります。

特徴内容
点火遅れが長い燃料が噴射されてから着火するまでの時間が長い
圧力上昇率が大きい着火後、一気に燃焼して圧力が急上昇する
最高圧が高い燃焼圧力のピークが高くなる

ディーゼルノックは、燃焼の初期に起こります。点火遅れが長くなると、その間に噴射された燃料が燃焼室内にたまり、着火後に一気に燃焼します。そのため、圧力上昇が急になり、最高圧も高くなります。

ディーゼルノックを防止するには

ディーゼルノックを防止するには、点火遅れを長くしないことが大切です。
主な方法は次のとおりです。

方法内容
発火性のよい燃料を使うセタン価の高い燃料を選ぶ
圧縮圧力を下げないピストン、シリンダの気密を保つ
燃料噴射を良好にする燃料噴射ポンプの油密をよくする
燃料噴射弁を整備する漏れをなくし、圧力調整を怠らない
シリンダ冷却水温度を下げすぎないシリンダ内温度が低くなりすぎないようにする
噴射率を少なくする一時に多量の燃料が燃えるのを避ける

ここでは、ディーゼルノックを単なる「異音」として覚えるのではなく、点火遅れが長くなり、燃焼初期に急激な圧力上昇が起こる現象として整理すると理解しやすくなります。

インジケータ線図と性能判断

インジケータ線図は、機関の性能判断に使われます。たとえば、次のような見方があります。

線図の状態考えられること
圧縮圧力が低い気密不良、弁漏れ、ピストンリングの不良など
最高圧力が高い噴射時期が早い、燃焼が急激、ノック傾向など
最高圧力が低い燃料噴射量不足、圧縮圧力不足、燃焼不良など
圧力上昇が急点火遅れ、ディーゼルノック傾向など
排気・吸気側の圧力変化が大きい吸排気通路や過給・排気系統の状態確認が必要

ただし、線図だけで原因を一つに決めることはできません。実際には、排気温度、燃料ラック、給気圧、掃気温度、回転数、負荷、過給機の状態などと合わせて判断します。インジケータ線図は、機関状態を判断するための重要な手がかりの一つです。

試験で押さえるポイント

今回のテーマでは、次の点を押さえておくとよいと思います。

テーマ押さえるポイント
P-V線図、たび形線図面積が仕事量を表し、図示出力を求めることができる
P-V線図の直線の長さピストンの行程、ストロークを示す
手引き線図圧縮圧力、最高圧力、燃焼状態を知ることができる
連続圧力線図最高圧力、圧縮圧力を知ることができる
弱バネ線図排気・吸気の低圧部分の圧力変化を知ることができる
線図の撮取機関を暖める、コックを開いてカーボンを吹き出す、手早く撮る
ディーゼルノック点火遅れが長く、圧力上昇率が大きく、最高圧が高い
ノック防止発火性のよい燃料、気密保持、噴射状態の改善、冷却水温度管理

特に、P-V線図の面積については、仕事量を表すという点をしっかり押さえてください。「図示平均有効圧を表す」と間違えやすいので注意が必要です。

実船では

実船では、インジケータ線図は、機関の燃焼状態やシリンダごとの出力差を確認するために使われます。各シリンダの線図を比較することで、燃焼状態のばらつきや、圧縮圧力・最高圧力の異常を見つけやすくなります。また、ディーゼルノックのように、燃焼初期に異常な圧力上昇がある場合にも、線図は重要な判断材料になります。ただし、線図だけで判断するのではなく、排気温度、燃料噴射装置、過給機、空気冷却器、運転負荷などと合わせて総合的に見ることが大切です。

おわりに

今回は、インジケータ線図と性能判断について整理しました。
ポイントは、次の3つです。

  • P-V線図の面積は、そのシリンダで発生した仕事を表す
  • 手引き線図では、圧縮圧力、最高圧力、燃焼状態を確認できる
  • ディーゼルノックでは、点火遅れが長く、圧力上昇率が大きく、最高圧が高くなる

インジケータ線図は、最初は形が分かりにくいかもしれません。
しかし、どの線図で何を見るのかを整理すると、試験でも実務でも理解しやすくなります。
次回は、ディーゼル機関シリーズのまとめとして、故障・異常現象と損傷防止について整理します。


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