海上衝突予防法

海上衝突予防法(昭和五十二年法律第六十二号)

海上衝突予防法(昭和二十八年法律第百五十一号)の全部を改正する。

第一章 総則

(目的)
第一条 この法律は、千九百七十二年の海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約に添付されている千九百七十二年の海上における衝突の予防のための国際規則の規定に準拠して、船舶の遵守すべき航法、表示すべき灯火及び形象物並びに行うべき信号に関し必要な事項を定めることにより、海上における船舶の衝突を予防し、もつて船舶交通の安全を図ることを目的とする。

(適用船舶)
第二条 この法律は、海洋及びこれに接続する航洋船が航行することができる水域の水上にある次条第一項に規定する船舶について適用する。

(定義)
第三条 この法律において「船舶」とは、水上輸送の用に供する船舟類(水上航空機を含む。)をいう。

2 この法律において「動力船」とは、機関を用いて推進する船舶(機関のほか帆を用いて推進する船舶であつて帆のみを用いて推進しているものを除く。)をいう。
3 この法律において「帆船」とは、帆のみを用いて推進する船舶及び機関のほか帆を用いて推進する船舶であつて帆のみを用いて推進しているものをいう。
4 この法律において「漁ろうに従事している船舶」とは、船舶の操縦性能を制限する網、なわその他の漁具を用いて漁ろうをしている船舶(操縦性能制限船に該当するものを除く。)をいう。
5 この法律において「水上航空機」とは、水上を移動することができる航空機をいい、「水上航空機等」とは、水上航空機及び特殊高速船(第二十三条第三項に規定する特殊高速船をいう。)をいう。
6 この法律において「運転不自由船」とは、船舶の操縦性能を制限する故障その他の異常な事態が生じているため他の船舶の進路を避けることができない船舶をいう。
7 この法律において「操縦性能制限船」とは、次に掲げる作業その他の船舶の操縦性能を制限する作業に従事しているため他の船舶の進路を避けることができない船舶をいう。

一 航路標識、海底電線又は海底パイプラインの敷設、保守又は引揚げ
二 しゆんせつ、測量その他の水中作業
三 航行中における補給、人の移乗又は貨物の積替え
四 航空機の発着作業
五 掃海作業
六 船舶及びその船舶に引かれている船舶その他の物件がその進路から離れることを著しく制限するえい航作業

8 この法律において「喫水制限船」とは、船舶の喫水と水深との関係によりその進路から離れることが著しく制限されている動力船をいう。
9 この法律において「航行中」とは、船舶がびよう泊(係船浮標又はびよう泊をしている船舶にする係留を含む。以下同じ。)をし、陸岸に係留をし、又は乗り揚げていない状態をいう。
10 この法律において「長さ」とは、船舶の全長をいう。
11 この法律において「互いに他の船舶の視野の内にある」とは、船舶が互いに視覚によつて他の船舶を見ることができる状態にあることをいう。
12 この法律において「視界制限状態」とは、霧、もや、降雪、暴風雨、砂あらしその他これらに類する事由により視界が制限されている状態をいう。

第二章 航法

第一節 あらゆる視界の状態における船舶の航法

(適用船舶)
第四条 この節の規定は、あらゆる視界の状態における船舶について適用する。

(見張り)
第五条 船舶は、周囲の状況及び他の船舶との衝突のおそれについて十分に判断することができるように、視覚、聴覚及びその時の状況に適した他のすべての手段により、常時適切な見張りをしなければならない。

(安全な速力)
第六条 船舶は、他の船舶との衝突を避けるための適切かつ有効な動作をとること又はその時の状況に適した距離で停止することができるように、常時安全な速力で航行しなければならない。この場合において、その速力の決定に当たつては、特に次に掲げる事項(レーダーを使用していない船舶にあつては、第一号から第六号までに掲げる事項)を考慮しなければならない。

一 視界の状態

二 船舶交通のふくそうの状況

三 自船の停止距離、旋回性能その他の操縦性能

四 夜間における陸岸の灯火、自船の灯火の反射等による灯光の存在

五 風、海面及び海潮流の状態並びに航路障害物に接近した状態

六 自船の喫水と水深との関係

七 自船のレーダーの特性、性能及び探知能力の限界

八 使用しているレーダーレンジによる制約

九 海象、気象その他の干渉原因がレーダーによる探知に与える影響

十 適切なレーダーレンジでレーダーを使用する場合においても小型船舶及び氷塊その他の漂流物を探知することができないときがあること。

十一 レーダーにより探知した船舶の数、位置及び動向

十二 自船と付近にある船舶その他の物件との距離をレーダーで測定することにより視界の状態を正確に把(は)握することができる場合があること。

(衝突のおそれ)
第七条 船舶は、他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを判断するため、その時の状況に適したすべての手段を用いなければならない。

2 レーダーを使用している船舶は、他の船舶と衝突するおそれがあることを早期に知るための長距離レーダーレンジによる走査、探知した物件のレーダープロッティングその他の系統的な観察等を行うことにより、当該レーダーを適切に用いなければならない。

3 船舶は、不十分なレーダー情報その他の不十分な情報に基づいて他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを判断してはならない。

4 船舶は、接近してくる他の船舶のコンパス方位に明確な変化が認められない場合は、これと衝突するおそれがあると判断しなければならず、また、接近してくる他の船舶のコンパス方位に明確な変化が認められる場合においても、大型船舶若しくはえい航作業に従事している船舶に接近し、又は近距離で他の船舶に接近するときは、これと衝突するおそれがあり得ることを考慮しなければならない。

5 船舶は、他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを確かめることができない場合は、これと衝突するおそれがあると判断しなければならない。

(衝突を避けるための動作)
第八条 船舶は、他の船舶との衝突を避けるための動作をとる場合は、できる限り、十分に余裕のある時期に、船舶の運用上の適切な慣行に従つてためらわずにその動作をとらなければならない。

2 船舶は、他の船舶との衝突を避けるための針路又は速力の変更を行う場合は、できる限り、その変更を他の船舶が容易に認めることができるように大幅に行わなければならない。

3 船舶は、広い水域において針路の変更を行う場合においては、それにより新たに他の船舶に著しく接近することとならず、かつ、それが適切な時期に大幅に行われる限り、針路のみの変更が他の船舶に著しく接近することを避けるための最も有効な動作となる場合があることを考慮しなければならない。

4 船舶は、他の船舶との衝突を避けるための動作をとる場合は、他の船舶との間に安全な距離を保つて通過することができるようにその動作をとらなければならない。この場合において、船舶は、その動作の効果を当該他の船舶が通過して十分に遠ざかるまで慎重に確かめなければならない。

5 船舶は、周囲の状況を判断するため、又は他の船舶との衝突を避けるために必要な場合は、速力を減じ、又は機関の運転を止め、若しくは機関を後進にかけることにより停止しなければならない。

(狭い水道等)
第九条 狭い水道又は航路筋(以下「狭い水道等」という。)をこれに沿つて航行する船舶は、安全であり、かつ、実行に適する限り、狭い水道等の右側端に寄つて航行しなければならない。ただし、次条第二項の規定の適用がある場合は、この限りでない。

2 航行中の動力船(漁ろうに従事している船舶を除く。次条第六項及び第十八条第一項において同じ。)は、狭い水道等において帆船の進路を避けなければならない。ただし、この規定は、帆船が狭い水道等の内側でなければ安全に航行することができない動力船の通航を妨げることができることとするものではない。

3 航行中の船舶(漁ろうに従事している船舶を除く。次条第七項において同じ。)は、狭い水道等において漁ろうに従事している船舶の進路を避けなければならない。ただし、この規定は、漁ろうに従事している船舶が狭い水道等の内側を航行している他の船舶の通航を妨げることができることとするものではない。

4 第十三条第二項又は第三項の規定による追越し船は、狭い水道等において、追い越される船舶が自船を安全に通過させるための動作をとらなければこれを追い越すことができない場合は、汽笛信号を行うことにより追越しの意図を示さなければならない。この場合において、当該追い越される船舶は、その意図に同意したときは、汽笛信号を行うことによりそれを示し、かつ、当該追越し船を安全に通過させるための動作をとらなければならない。

5 船舶は、狭い水道等の内側でなければ安全に航行することができない他の船舶の通航を妨げることとなる場合は、当該狭い水道等を横切つてはならない。

6 長さ二十メートル未満の動力船は、狭い水道等の内側でなければ安全に航行することができない他の動力船の通航を妨げてはならない。

7 第二項から前項までの規定は、第四条の規定にかかわらず、互いに他の船舶の視野の内にある船舶について適用する。

8 船舶は、障害物があるため他の船舶を見ることができない狭い水道等のわん曲部その他の水域に接近する場合は、十分に注意して航行しなければならない。

9 船舶は、狭い水道においては、やむを得ない場合を除き、びよう泊をしてはならない。

(分離通航方式)
第十条 この条の規定は、千九百七十二年の海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約(以下「条約」という。)に添付されている千九百七十二年の海上における衝突の予防のための国際規則(以下「国際規則」という。)第一条(d)の規定により国際海事機関が採択した分離通航方式について適用する。

2 船舶は、分離通航帯を航行する場合は、この法律の他の規定に定めるもののほか、次の各号に定めるところにより、航行しなければならない。

一 通航路をこれについて定められた船舶の進行方向に航行すること。

二 分離線又は分離帯からできる限り離れて航行すること。

三 できる限り通航路の出入口から出入すること。ただし、通航路の側方から出入する場合は、その通航路について定められた船舶の進行方向に対しできる限り小さい角度で出入しなければならない。

3 船舶は、通航路を横断してはならない。ただし、やむを得ない場合において、その通航路について定められた船舶の進行方向に対しできる限り直角に近い角度で横断するときは、この限りでない。

4 船舶(動力船であつて長さ二十メートル未満のもの及び帆船を除く。)は、沿岸通航帯に隣接した分離通航帯の通航路を安全に通過することができる場合は、やむを得ない場合を除き、沿岸通航帯を航行してはならない。

5 通航路を横断し、又は通航路に出入する船舶以外の船舶は、次に掲げる場合その他やむを得ない場合を除き、分離帯に入り、又は分離線を横切つてはならない。

一 切迫した危険を避ける場合

二 分離帯において漁ろうに従事する場合

6 航行中の動力船は、通航路において帆船の進路を避けなければならない。ただし、この規定は、帆船が通航路をこれに沿つて航行している動力船の安全な通航を妨げることができることとするものではない。

7 航行中の船舶は、通航路において漁ろうに従事している船舶の進路を避けなければならない。ただし、この規定は、漁ろうに従事している船舶が通航路をこれに沿つて航行している他の船舶の通航を妨げることができることとするものではない。

8 長さ二十メートル未満の動力船は、通航路をこれに沿つて航行している他の動力船の安全な通航を妨げてはならない。

9 前三項の規定は、第四条の規定にかかわらず、互いに他の船舶の視野の内にある船舶について適用する。

10 船舶は、分離通航帯の出入口付近においては、十分に注意して航行しなければならない。

11 船舶は、分離通航帯及びその出入口付近においては、やむを得ない場合を除き、びよう泊をしてはならない。

12 分離通航帯を航行しない船舶は、できる限り分離通航帯から離れて航行しなければならない。

13 第二項、第三項、第五項及び第十一項の規定は、操縦性能制限船であつて、分離通航帯において船舶の航行の安全を確保するための作業又は海底電線の敷設、保守若しくは引揚げのための作業に従事しているものについては、当該作業を行うために必要な限度において適用しない。

14 海上保安庁長官は、第一項に規定する分離通航方式の名称、その分離通航方式について定められた分離通航帯、通航路、分離線、分離帯及び沿岸通航帯の位置その他分離通航方式に関し必要な事項を告示しなければならない。

第二節 互いに他の船舶の視野の内にある船舶の航法

(適用船舶)
第十一条 この節の規定は、互いに他の船舶の視野の内にある船舶について適用する。

(帆船)
第十二条 二隻の帆船が互いに接近し、衝突するおそれがある場合における帆船の航法は、次の各号に定めるところによる。ただし、第九条第三項、第十条第七項又は第十八条第二項若しくは第三項の規定の適用がある場合は、この限りでない。

一 二隻の帆船の風を受けるげんが異なる場合は、左げんに風を受ける帆船は、右げんに風を受ける帆船の進路を避けなければならない。

二 二隻の帆船の風を受けるげんが同じである場合は、風上の帆船は、風下の帆船の進路を避けなければならない。

三 左げんに風を受ける帆船は、風上に他の帆船を見る場合において、当該他の帆船の風を受けるげんが左げんであるか右げんであるかを確かめることができないときは、当該他の帆船の進路を避けなければならない。

2 前項第二号及び第三号の規定の適用については、風上は、メインスル(横帆船にあつては、最大の縦帆)の張つている側の反対側とする。

(追越し船)
第十三条 追越し船は、この法律の他の規定にかかわらず、追い越される船舶を確実に追い越し、かつ、その船舶から十分に遠ざかるまでその船舶の進路を避けなければならない。

2 船舶の正横後二十二度三十分を超える後方の位置(夜間にあつては、その船舶の第二十一条第二項に規定するげん灯のいずれをも見ることができない位置)からその船舶を追い越す船舶は、追越し船とする。

3 船舶は、自船が追越し船であるかどうかを確かめることができない場合は、追越し船であると判断しなければならない。

(行会い船)
第十四条 二隻の動力船が真向かい又はほとんど真向かいに行き会う場合において衝突するおそれがあるときは、各動力船は、互いに他の動力船の左げん側を通過することができるようにそれぞれ針路を右に転じなければならない。ただし、第九条第三項、第十条第七項又は第十八条第一項若しくは第三項の規定の適用がある場合は、この限りでない。

2 動力船は、他の動力船を船首方向又はほとんど船首方向に見る場合において、夜間にあつては当該他の動力船の第二十三条第一項第一号の規定によるマスト灯二個を垂直線上若しくはほとんど垂直線上に見るとき、又は両側の同項第二号の規定によるげん灯を見るとき、昼間にあつては当該他の動力船をこれに相当する状態に見るときは、自船が前項に規定する状況にあると判断しなければならない。

3 動力船は、自船が第一項に規定する状況にあるかどうかを確かめることができない場合は、その状況にあると判断しなければならない。

(横切り船)
第十五条 二隻の動力船が互いに進路を横切る場合において衝突するおそれがあるときは、他の動力船を右げん側に見る動力船は、当該他の動力船の進路を避けなければならない。この場合において、他の動力船の進路を避けなければならない動力船は、やむを得ない場合を除き、当該他の動力船の船首方向を横切つてはならない。

2 前条第一項ただし書の規定は、前項に規定する二隻の動力船が互いに進路を横切る場合について準用する。

(避航船)
第十六条 この法律の規定により他の船舶の進路を避けなければならない船舶(次条において「避航船」という。)は、当該他の船舶から十分に遠ざかるため、できる限り早期に、かつ、大幅に動作をとらなければならない。

(保持船)
第十七条 この法律の規定により二隻の船舶のうち一隻の船舶が他の船舶の進路を避けなければならない場合は、当該他の船舶は、その針路及び速力を保たなければならない。

2 前項の規定により針路及び速力を保たなければならない船舶(以下この条において「保持船」という。)は、避航船がこの法律の規定に基づく適切な動作をとつていないことが明らかになつた場合は、同項の規定にかかわらず、直ちに避航船との衝突を避けるための動作をとることができる。この場合において、これらの船舶について第十五条第一項の規定の適用があるときは、保持船は、やむを得ない場合を除き、針路を左に転じてはならない。

3 保持船は、避航船と間近に接近したため、当該避航船の動作のみでは避航船との衝突を避けることができないと認める場合は、第一項の規定にかかわらず、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなければならない。

(各種船舶間の航法)
第十八条 第九条第二項及び第三項並びに第十条第六項及び第七項に定めるもののほか、航行中の動力船は、次に掲げる船舶の進路を避けなければならない。

一 運転不自由船

二 操縦性能制限船

三 漁ろうに従事している船舶

四 帆船

2 第九条第三項及び第十条第七項に定めるもののほか、航行中の帆船(漁ろうに従事している船舶を除く。)は、次に掲げる船舶の進路を避けなければならない。

一 運転不自由船

二 操縦性能制限船

三 漁ろうに従事している船舶

3 航行中の漁ろうに従事している船舶は、できる限り、次に掲げる船舶の進路を避けなければならない。

一 運転不自由船

二 操縦性能制限船

4 船舶(運転不自由船及び操縦性能制限船を除く。)は、やむを得ない場合を除き、第二十八条の規定による灯火又は形象物を表示している喫水制限船の安全な通航を妨げてはならない。

5 喫水制限船は、十分にその特殊な状態を考慮し、かつ、十分に注意して航行しなければならない。

6 水上航空機等は、できる限り、すべての船舶から十分に遠ざかり、かつ、これらの船舶の通航を妨げないようにしなければならない。

第三節 視界制限状態における船舶の航法

第十九条 この条の規定は、視界制限状態にある水域又はその付近を航行している船舶(互いに他の船舶の視野の内にあるものを除く。)について適用する。

2 動力船は、視界制限状態においては、機関を直ちに操作することができるようにしておかなければならない。

3 船舶は、第一節の規定による措置を講ずる場合は、その時の状況及び視界制限状態を十分に考慮しなければならない。

4 他の船舶の存在をレーダーのみにより探知した船舶は、当該他の船舶に著しく接近することとなるかどうか又は当該他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを判断しなければならず、また、他の船舶に著しく接近することとなり、又は他の船舶と衝突するおそれがあると判断した場合は、十分に余裕のある時期にこれらの事態を避けるための動作をとらなければならない。

5 前項の規定による動作をとる船舶は、やむを得ない場合を除き、次に掲げる針路の変更を行つてはならない。

一 他の船舶が自船の正横より前方にある場合(当該他の船舶が自船に追い越される船舶である場合を除く。)において、針路を左に転じること。

二 自船の正横又は正横より後方にある他の船舶の方向に針路を転じること。

6 船舶は、他の船舶と衝突するおそれがないと判断した場合を除き、他の船舶が行う第三十五条の規定による音響による信号を自船の正横より前方に聞いた場合又は自船の正横より前方にある他の船舶と著しく接近することを避けることができない場合は、その速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じなければならず、また、必要に応じて停止しなければならない。この場合において、船舶は、衝突の危険がなくなるまでは、十分に注意して航行しなければならない。

第三章 灯火及び形象物

(通則)
第二十条 船舶(船舶に引かれている船舶以外の物件を含む。以下この条において同じ。)は、この法律に定める灯火(以下この項及び次項において「法定灯火」という。)を日没から日出までの間表示しなければならず、また、この間は、次の各号のいずれにも該当する灯火を除き、法定灯火以外の灯火を表示してはならない。

一 法定灯火と誤認されることのない灯火であること。

二 法定灯火の視認又はその特性の識別を妨げることとならない灯火であること。

三 見張りを妨げることとならない灯火であること。

2 法定灯火を備えている船舶は、視界制限状態においては、日出から日没までの間にあつてもこれを表示しなければならず、また、その他必要と認められる場合は、これを表示することができる。

3 船舶は、昼間においてこの法律に定める形象物を表示しなければならない。

4 この法律に定めるもののほか、灯火及び形象物の技術上の基準並びにこれらを表示すべき位置については、国土交通省令で定める。

(定義)
第二十一条 この法律において「マスト灯」とは、二百二十五度にわたる水平の弧を照らす白灯であつて、その射光が正船首方向から各げん正横後二十二度三十分までの間を照らすように船舶の中心線上に装置されるものをいう。

2 この法律において「げん灯」とは、それぞれ百十二度三十分にわたる水平の弧を照らす紅灯及び緑灯の一対であつて、紅灯にあつてはその射光が正船首方向から左げん正横後二十二度三十分までの間を照らすように左げん側に装置される灯火をいい、緑灯にあつてはその射光が正船首方向から右げん正横後二十二度三十分までの間を照らすように右げん側に装置される灯火をいう。

3 この法律において「両色灯」とは、紅色及び緑色の部分からなる灯火であつて、その紅色及び緑色の部分がそれぞれげん灯の紅灯及び緑灯と同一の特性を有することとなるように船舶の中心線上に装置されるものをいう。

4 この法律において「船尾灯」とは、百三十五度にわたる水平の弧を照らす白灯であつて、その射光が正船尾方向から各げん六十七度三十分までの間を照らすように装置されるものをいう。

5 この法律において「引き船灯」とは、船尾灯と同一の特性を有する黄灯をいう。

6 この法律において「全周灯」とは、三百六十度にわたる水平の弧を照らす灯火をいう。

7 この法律において「せん光灯」とは、一定の間隔で毎分百二十回以上のせん光を発する全周灯をいう。

(灯火の視認距離)
第二十二条 次の表の上欄に掲げる船舶その他の物件が表示する灯火は、同表中欄に掲げる灯火の種類ごとに、同表下欄に掲げる距離以上の視認距離を得るのに必要な国土交通省令で定める光度を有するものでなければならない。

長さ五十メートル以上の船舶(他の動力船に引かれている航行中の船舶であつて、その相当部分が水没しているため視認が困難であるものを除く。) マスト灯 六海里
げん灯 三海里
船尾灯 三海里
引き船灯 三海里
全周灯 三海里
長さ十二メートル以上五十メートル未満の船舶(他の動力船に引かれている航行中の船舶であつて、その相当部分が水没しているため視認が困難であるものを除く。) マスト灯 五海里(長さ二十メートル未満の船舶にあつては、三海里)
げん灯 二海里
船尾灯 二海里
引き船灯 二海里
全周灯 二海里
長さ十二メートル未満の船舶(他の動力船に引かれている航行中の船舶であつて、その相当部分が水没しているため視認が困難であるものを除く。) マスト灯 二海里
げん灯 一海里
船尾灯 二海里
引き船灯 二海里
全周灯 二海里
他の動力船に引かれている航行中の船舶その他の物件であつて、その相当部分が水没しているため視認が困難であるもの 全周灯 三海里

(航行中の動力船)
第二十三条 航行中の動力船(次条第一項、第二項、第四項若しくは第七項、第二十六条第一項若しくは第二項、第二十七条第一項から第四項まで若しくは第六項又は第二十九条の規定の適用があるものを除く。以下この条において同じ。)は、次に定めるところにより、灯火を表示しなければならない。

一 前部にマスト灯一個を掲げ、かつ、そのマスト灯よりも後方の高い位置にマスト灯一個を掲げること。ただし、長さ五十メートル未満の動力船は、後方のマスト灯を掲げることを要しない。

二 げん灯一対(長さ二十メートル未満の動力船にあつては、げん灯一対又は両色灯一個。第四項及び第五項並びに次条第一項第二号及び第二項第二号において同じ。)を掲げること。

三 できる限り船尾近くに船尾灯一個を掲げること。

2 水面から浮揚した状態で航行中のエアクッション船(船体の下方へ噴出する空気の圧力の反作用により水面から浮揚した状態で移動することができる動力船をいう。)は、前項の規定による灯火のほか、黄色のせん光灯一個を表示しなければならない。

3 特殊高速船(その有する速力が著しく高速であるものとして国土交通省令で定める動力船をいう。)は、第一項の規定による灯火のほか、紅色のせん光灯一個を表示しなければならない。

4 航行中の長さ十二メートル未満の動力船は、第一項の規定による灯火の表示に代えて、白色の全周灯一個及びげん灯一対を表示することができる。

5 航行中の長さ七メートル未満の動力船であつて、その最大速力が七ノットを超えないものは、第一項又は前項の規定による灯火の表示に代えて、白色の全周灯一個を表示することができる。この場合において、その動力船は、できる限りげん灯一対を表示しなければならない。

6 航行中の長さ十二メートル未満の動力船は、マスト灯を表示しようとする場合において、そのマスト灯を船舶の中心線上に装置することができないときは、マスト灯と同一の特性を有する灯火一個を船舶の中心線上の位置以外の位置に表示することをもつて足りる。

7 航行中の長さ十二メートル未満の動力船は、両色灯を表示しようとする場合において、マスト灯又は第三項若しくは第四項の規定による白色の全周灯を船舶の中心線上に装置することができないときは、その両色灯の表示に代えて、これと同一の特性を有する灯火一個を船舶の中心線上の位置以外の位置に表示することができる。この場合において、その灯火は、前項の規定によるマスト灯と同一の特性を有する灯火又は第四項若しくは第五項の規定による白色の全周灯が装置されている位置から船舶の中心線に平行に引いた直線上又はできる限りその直線の近くに掲げるものとする。

(航行中のえい航船等)
第二十四条 船舶その他の物件を引いている航行中の動力船(次項、第二十六条第一項若しくは第二項又は第二十七条第一項から第四項まで若しくは第六項の規定の適用があるものを除く。以下この項において同じ。)は、次に定めるところにより、灯火又は形象物を表示しなければならない。

一 次のイ又はロに定めるマスト灯を掲げること。ただし、長さ五十メートル未満の動力船は、イに定める後方のマスト灯を掲げることを要しない。

イ 前部に垂直線上にマスト灯二個(引いている船舶の船尾から引かれている船舶その他の物件の後端までの距離(以下この条において「えい航物件の後端までの距離」という。)が二百メートルを超える場合にあつては、マスト灯三個)及びこれらのマスト灯よりも後方の高い位置にマスト灯一個

ロ 前部にマスト灯一個及びこのマスト灯よりも後方の高い位置に垂直線上にマスト灯二個(えい航物件の後端までの距離が二百メートルを超える場合にあつては、マスト灯三個)

二 げん灯一対を掲げること。

三 できる限り船尾近くに船尾灯一個を掲げること。

四 前号の船尾灯の垂直線上の上方に引き船灯一個を掲げること。

五 えい航物件の後端までの距離が二百メートルを超える場合は、最も見えやすい場所にひし形の形象物一個を掲げること。

2 船舶その他の物件を押し、又は接げんして引いている航行中の動力船(第二十六条第一項若しくは第二項又は第二十七条第一項、第二項若しくは第四項の規定の適用があるものを除く。以下この項において同じ。)は、次に定めるところにより、灯火を表示しなければならない。

一 次のイ又はロに定めるマスト灯を掲げること。ただし、長さ五十メートル未満の動力船は、イに定める後方のマスト灯を掲げることを要しない。

イ 前部に垂直線上にマスト灯二個及びこれらのマスト灯よりも後方の高い位置にマスト灯一個

ロ 前部にマスト灯一個及びこのマスト灯よりも後方の高い位置に垂直線上にマスト灯二個

二 げん灯一対を掲げること。

三 できる限り船尾近くに船尾灯一個を掲げること。

3 遭難その他の事由により救助を必要としている船舶を引いている航行中の動力船であつて、通常はえい航作業に従事していないものは、やむを得ない事由により前二項の規定による灯火を表示することができない場合は、これらの灯火の表示に代えて、前条の規定による灯火を表示し、かつ、当該動力船が船舶を引いていることを示すため、えい航索の照明その他の第三十六条第一項の規定による他の船舶の注意を喚起するための信号を行うことをもつて足りる。

4 他の動力船に引かれている航行中の船舶その他の物件(第一項、第七項(第二号に係る部分に限る。)、第二十六条第一項若しくは第二項又は第二十七条第二項から第四項までの規定の適用がある船舶及び次項の規定の適用がある船舶その他の物件を除く。以下この項において同じ。)は、次に定めるところにより、灯火又は形象物を表示しなければならない。

一 げん灯一対(長さ二十メートル未満の船舶その他の物件にあつては、げん灯一対又は両色灯一個)を掲げること。

二 できる限り船尾近くに船尾灯一個を掲げること。

三 えい航物件の後端までの距離が二百メートルを超える場合は、最も見えやすい場所にひし形の形象物一個を掲げること。

5 他の動力船に引かれている航行中の船舶その他の物件であつて、その相当部分が水没しているため視認が困難であるものは、次に定めるところにより、灯火又は形象物を表示しなければならない。この場合において、二以上の船舶その他の物件が連結して引かれているときは、これらの物件は、一個の物件とみなす。

一 前端又はその付近及び後端又はその付近に、それぞれ白色の全周灯一個を掲げること。ただし、石油その他の貨物を充てんして水上輸送の用に供するゴム製の容器は、前端又はその付近に白色の全周灯を掲げることを要しない。

二 引かれている船舶その他の物件の最大の幅が二十五メートル以上である場合は、両側端又はその付近にそれぞれ白色の全周灯一個を掲げること。

三 引かれている船舶その他の物件の長さが百メートルを超える場合は、前二号の規定による白色の全周灯の間に、百メートルを超えない間隔で白色の全周灯を掲げること。

四 後端又はその付近にひし形の形象物一個を掲げること。

五 えい航物件の後端までの距離が二百メートルを超える場合は、できる限り前方の最も見えやすい場所にひし形の形象物一個を掲げること。

6 前二項に規定する他の動力船に引かれている航行中の船舶その他の物件は、やむを得ない事由により前二項の規定による灯火又は形象物を表示することができない場合は、照明その他その存在を示すために必要な措置を講ずることをもつて足りる。

7 次の各号に掲げる船舶(第二十六条第一項若しくは第二項又は第二十七条第二項から第四項までの規定の適用があるものを除く。)は、それぞれ当該各号に定めるところにより、灯火を表示しなければならない。この場合において、二隻以上の船舶が一団となつて、押され、又は接げんして引かれているときは、これらの船舶は、一隻の船舶とみなす。

一 他の動力船に押されている航行中の船舶 前端にげん灯一対(長さ二十メートル未満の船舶にあつては、げん灯一対又は両色灯一個。次号において同じ。)を掲げること。

二 他の動力船に接げんして引かれている航行中の船舶 前端にげん灯一対を掲げ、かつ、できる限り船尾近くに船尾灯一個を掲げること。

8 押している動力船と押されている船舶とが結合して一体となつている場合は、これらの船舶を一隻の動力船とみなしてこの章の規定を適用する。

(航行中の帆船等)
第二十五条 航行中の帆船(前条第四項若しくは第七項、次条第一項若しくは第二項又は第二十七条第一項、第二項若しくは第四項の規定の適用があるものを除く。以下この条において同じ。)であつて、長さ七メートル以上のものは、げん灯一対(長さ二十メートル未満の帆船にあつては、げん灯一対又は両色灯一個。以下この条において同じ。)を表示し、かつ、できる限り船尾近くに船尾灯一個を表示しなければならない。

2 航行中の長さ七メートル未満の帆船は、できる限り、げん灯一対を表示し、かつ、できる限り船尾近くに船尾灯一個を表示しなければならない。ただし、これらの灯火又は次項に規定する三色灯を表示しない場合は、白色の携帯電灯又は点火した白灯を直ちに使用することができるように備えておき、他の船舶との衝突を防ぐために十分な時間これを表示しなければならない。

3 航行中の長さ二十メートル未満の帆船は、げん灯一対及び船尾灯一個の表示に代えて、三色灯(紅色、緑色及び白色の部分からなる灯火であつて、紅色及び緑色の部分にあつてはそれぞれげん灯の紅灯及び緑灯と、白色の部分にあつては船尾灯と同一の特性を有することとなるように船舶の中心線上に装置されるものをいう。)一個をマストの最上部又はその付近の最も見えやすい場所に表示することができる。

4 航行中の帆船は、げん灯一対及び船尾灯一個のほか、マストの最上部又はその付近の最も見えやすい場所に、紅色の全周灯一個を表示し、かつ、その垂直線上の下方に緑色の全周灯一個を表示することができる。ただし、これらの灯火を前項の規定による三色灯と同時に表示してはならない。

5 ろかいを用いている航行中の船舶は、前各項の規定による帆船の灯火を表示することができる。ただし、これらの灯火を表示しない場合は、白色の携帯電灯又は点火した白灯を直ちに使用することができるように備えておき、他の船舶との衝突を防ぐために十分な時間これを表示しなければならない。

6 機関及び帆を同時に用いて推進している動力船(次条第一項若しくは第二項又は第二十七条第一項から第四項までの規定の適用があるものを除く。)は、前部の最も見えやすい場所に円すい形の形象物一個を頂点を下にして表示しなければならない。

(漁ろうに従事している船舶)
第二十六条 航行中又はびよう泊中の漁ろうに従事している船舶(次条第一項の規定の適用があるものを除く。以下この条において同じ。)であつて、トロール(けた網その他の漁具を水中で引くことにより行う漁法をいう。第四項において同じ。)により漁ろうをしているもの(以下この条において「トロール従事船」という。)は、次に定めるところにより、灯火又は形象物を表示しなければならない。

一 緑色の全周灯一個を掲げ、かつ、その垂直線上の下方に白色の全周灯一個を掲げること。

二 前号の緑色の全周灯よりも後方の高い位置にマスト灯一個を掲げること。ただし、長さ五十メートル未満の漁ろうに従事している船舶は、これを掲げることを要しない。

三 対水速力を有する場合は、げん灯一対(長さ二十メートル未満の漁ろうに従事している船舶にあつては、げん灯一対又は両色灯一個。次項第二号において同じ。)を掲げ、かつ、できる限り船尾近くに船尾灯一個を掲げること。

四 二個の同形の円すいをこれらの頂点で垂直線上の上下に結合した形の形象物一個を掲げること。

2 トロール従事船以外の航行中又はびよう泊中の漁ろうに従事している船舶は、次に定めるところにより、灯火又は形象物を表示しなければならない。

一 紅色の全周灯一個を掲げ、かつ、その垂直線上の下方に白色の全周灯一個を掲げること。

二 対水速力を有する場合は、げん灯一対を掲げ、かつ、できる限り船尾近くに船尾灯一個を掲げること。

三 漁具を水平距離百五十メートルを超えて船外に出している場合は、その漁具を出している方向に白色の全周灯一個又は頂点を上にした円すい形の形象物一個を掲げること。

四 二個の同形の円すいをこれらの頂点で垂直線上の上下に結合した形の形象物一個を掲げること。

3 長さ二十メートル以上のトロール従事船は、他の漁ろうに従事している船舶と著しく接近している場合は、第一項の規定による灯火のほか、次に定めるところにより、同項第一号の白色の全周灯よりも低い位置の最も見えやすい場所に灯火を表示しなければならない。この場合において、その灯火は、第二十二条の規定にかかわらず、一海里以上三海里未満(長さ五十メートル未満のトロール従事船にあつては、一海里以上二海里未満)の視認距離を得るのに必要な国土交通省令で定める光度を有するものでなければならない。

一 投網を行つている場合は、白色の全周灯二個を垂直線上に掲げること。

二 揚網を行つている場合は、白色の全周灯一個を掲げ、かつ、その垂直線上の下方に紅色の全周灯一個を掲げること。

三 網が障害物に絡み付いている場合は、紅色の全周灯二個を垂直線上に掲げること。

4 長さ二十メートル以上のトロール従事船であつて、二そうびきのトロールにより漁ろうをしているものは、他の漁ろうに従事している船舶と著しく接近している場合は、それぞれ、第一項及び前項の規定による灯火のほか、第二十条第一項及び第二項の規定にかかわらず、夜間において対をなしている他方の船舶の進行方向を示すように探照灯を照射しなければならない。

5 長さ二十メートル以上のトロール従事船以外の国土交通省令で定める漁ろうに従事している船舶は、他の漁ろうに従事している船舶と著しく接近している場合は、第一項又は第二項の規定による灯火のほか、国土交通省令で定める灯火を国土交通省令で定めるところにより表示することができる。

(運転不自由船及び操縦性能制限船)
第二十七条 航行中の運転不自由船(第二十四条第四項又は第七項の規定の適用があるものを除く。以下この項において同じ。)は、次に定めるところにより、灯火又は形象物を表示しなければならない。ただし、航行中の長さ十二メートル未満の運転不自由船は、その灯火又は形象物を表示することを要しない。

一 最も見えやすい場所に紅色の全周灯二個を垂直線上に掲げること。

二 対水速力を有する場合は、げん灯一対(長さ二十メートル未満の運転不自由船にあつては、げん灯一対又は両色灯一個)を掲げ、かつ、できる限り船尾近くに船尾灯一個を掲げること。

三 最も見えやすい場所に球形の形象物二個又はこれに類似した形象物二個を垂直線上に掲げること。

2 航行中又はびよう泊中の操縦性能制限船(前項、次項、第四項又は第六項の規定の適用があるものを除く。以下この項において同じ。)は、次に定めるところにより、灯火又は形象物を表示しなければならない。

一 最も見えやすい場所に白色の全周灯一個を掲げ、かつ、その垂直線上の上方及び下方にそれぞれ紅色の全周灯一個を掲げること。

二 対水速力を有する場合は、マスト灯二個(長さ五十メートル未満の操縦性能制限船にあつては、マスト灯一個。第四項第二号において同じ。)及びげん灯一対(長さ二十メートル未満の操縦性能制限船にあつては、げん灯一対又は両色灯一個。同号において同じ。)を掲げ、かつ、できる限り船尾近くに船尾灯一個を掲げること。

三 最も見えやすい場所にひし形の形象物一個を掲げ、かつ、その垂直線上の上方及び下方にそれぞれ球形の形象物一個を掲げること。

四 びよう泊中においては、最も見えやすい場所に第三十条第一項各号の規定による灯火又は形象物を掲げること。

3 航行中の操縦性能制限船であつて、第三条第七項第六号に規定するえい航作業に従事しているもの(第一項の規定の適用があるものを除く。)は、第二十四条第一項各号並びに前項第一号及び第三号の規定による灯火又は形象物を表示しなければならない。

4 航行中又はびよう泊中の操縦性能制限船であつて、しゆんせつその他の水中作業(掃海作業を除く。)に従事しているもの(第一項の規定の適用があるものを除く。)は、その作業が他の船舶の通航の妨害となるおそれがある場合は、次の各号に定めるところにより、灯火又は形象物を表示しなければならない。

一 最も見えやすい場所に白色の全周灯一個を掲げ、かつ、その垂直線上の上方及び下方にそれぞれ紅色の全周灯一個を掲げること。

二 対水速力を有する場合は、マスト灯二個及びげん灯一対を掲げ、かつ、できる限り船尾近くに船尾灯一個を掲げること。

三 その作業が他の船舶の通航の妨害となるおそれがある側のげんを示す紅色の全周灯二個又は球形の形象物二個をそのげんの側に垂直線上に掲げること。

四 他の船舶が通航することができる側のげんを示す緑色の全周灯二個又はひし形の形象物二個をそのげんの側に垂直線上に掲げること。

五 最も見えやすい場所にひし形の形象物一個を掲げ、かつ、その垂直線上の上方及び下方にそれぞれ球形の形象物一個を掲げること。

5 前項に規定する操縦性能制限船であつて、潜水夫による作業に従事しているものは、その船体の大きさのために同項第二号から第五号までの規定による灯火又は形象物を表示することができない場合は、次に定めるところにより、灯火又は信号板を表示することをもつて足りる。

一 最も見えやすい場所に白色の全周灯一個を掲げ、かつ、その垂直線上の上方及び下方にそれぞれ紅色の全周灯一個を掲げること。

二 国際海事機関が採択した国際信号書に定めるA旗を表す信号板を、げん縁上一メートル以上の高さの位置に周囲から見えるように掲げること。

6 航行中又はびよう泊中の操縦性能制限船であつて、掃海作業に従事しているものは、次に定めるところにより、灯火又は形象物を表示しなければならない。

一 当該船舶から千メートル以内の水域が危険であることを示す緑色の全周灯三個又は球形の形象物三個を掲げること。この場合において、これらの全周灯三個又は球形の形象物三個のうち、一個は前部マストの最上部付近に掲げ、かつ、他の二個はその前部マストのヤードの両端に掲げること。

二 航行中においては、第二十三条第一項各号の規定による灯火を掲げること。

三 びよう泊中においては、最も見えやすい場所に第三十条第一項各号の規定による灯火又は形象物を掲げること。

7 航行中又はびよう泊中の長さ十二メートル未満の操縦性能制限船(潜水夫による作業に従事しているものを除く。)は、第二項から第四項まで及び前項の規定による灯火又は形象物を表示することを要しない。

(喫水制限船)
第二十八条 航行中の喫水制限船(第二十三条第一項の規定の適用があるものに限る。)は、同項各号の規定による灯火のほか、最も見えやすい場所に紅色の全周灯三個又は円筒形の形象物一個を垂直線上に表示することができる。

(水先船)
第二十九条 航行中又はびよう泊中の水先船であつて、水先業務に従事しているものは、次に定めるところにより、灯火又は形象物を表示しなければならない。

一 マストの最上部又はその付近に白色の全周灯一個を掲げ、かつ、その垂直線上の下方に紅色の全周灯一個を掲げること。

二 航行中においては、げん灯一対(長さ二十メートル未満の水先船にあつては、げん灯一対又は両色灯一個)を掲げ、かつ、できる限り船尾近くに船尾灯一個を掲げること。

三 びよう泊中においては、最も見えやすい場所に次条第一項各号の規定による灯火又は形象物を掲げること。
(びよう泊中の船舶及び乗り揚げている船舶)

第三十条 びよう泊中の船舶(第二十六条第一項若しくは第二項、第二十七条第二項、第四項若しくは第六項又は前条の規定の適用があるものを除く。次項及び第四項において同じ。)は、次に定めるところにより、最も見えやすい場所に灯火又は形象物を表示しなければならない。

一 前部に白色の全周灯一個を掲げ、かつ、できる限り船尾近くにその全周灯よりも低い位置に白色の全周灯一個を掲げること。ただし、長さ五十メートル未満の船舶は、これらの灯火に代えて、白色の全周灯一個を掲げることができる。

二 前部に球形の形象物一個を掲げること。

2 びよう泊中の船舶は、作業灯又はこれに類似した灯火を使用してその甲板を照明しなければならない。ただし、長さ百メートル未満の船舶は、その甲板を照明することを要しない。

3 乗り揚げている船舶は、次に定めるところにより、最も見えやすい場所に灯火又は形象物を表示しなければならない。

一 前部に白色の全周灯一個を掲げ、かつ、できる限り船尾近くにその全周灯よりも低い位置に白色の全周灯一個を掲げること。ただし、長さ五十メートル未満の船舶は、これらの灯火に代えて、白色の全周灯一個を掲げることができる。

二 紅色の全周灯二個を垂直線上に掲げること。

三 球形の形象物三個を垂直線上に掲げること。

4 長さ七メートル未満のびよう泊中の船舶は、そのびよう泊をしている水域が、狭い水道等、びよう地若しくはこれらの付近又は他の船舶が通常航行する水域である場合を除き、第一項の規定による灯火又は形象物を表示することを要しない。

5 長さ十二メートル未満の乗り揚げている船舶は、第三項第二号又は第三号の規定による灯火又は形象物を表示することを要しない。

(水上航空機等)
第三十一条 水上航空機等は、この法律の規定による灯火又は形象物を表示することができない場合は、その特性又は位置についてできる限りこの法律の規定に準じてこれを表示しなければならない。

第四章 音響信号及び発光信号

(定義)
第三十二条 この法律において「汽笛」とは、この法律に規定する短音及び長音を発することができる装置をいう。

2 この法律において「短音」とは、約一秒間継続する吹鳴をいう。

3 この法律において「長音」とは、四秒以上六秒以下の時間継続する吹鳴をいう。

(音響信号設備)
第三十三条 船舶は、汽笛及び号鐘(長さ百メートル以上の船舶にあつては、汽笛並びに号鐘及びこれと混同しない音調を有するどら)を備えなければならない。ただし、号鐘又はどらは、それぞれこれと同一の音響特性を有し、かつ、この法律の規定による信号を手動により行うことができる他の設備をもつて代えることができる。

2 長さ二十メートル未満の船舶は、前項の号鐘(長さ十二メートル未満の船舶にあつては、同項の汽笛及び号鐘)を備えることを要しない。ただし、これらを備えない場合は、有効な音響による信号を行うことができる他の手段を講じておかなければならない。

3 この法律に定めるもののほか、汽笛、号鐘及びどらの技術上の基準並びに汽笛の位置については、国土交通省令で定める。

(操船信号及び警告信号)
第三十四条 航行中の動力船は、互いに他の船舶の視野の内にある場合において、この法律の規定によりその針路を転じ、又はその機関を後進にかけているときは、次の各号に定めるところにより、汽笛信号を行わなければならない。

一 針路を右に転じている場合は、短音を一回鳴らすこと。

二 針路を左に転じている場合は、短音を二回鳴らすこと。

三 機関を後進にかけている場合は、短音を三回鳴らすこと。

2 航行中の動力船は、前項の規定による汽笛信号を行わなければならない場合は、次の各号に定めるところにより、発光信号を行うことができる。この場合において、その動力船は、その発光信号を十秒以上の間隔で反復して行うことができる。

一 針路を右に転じている場合は、せん光を一回発すること。

二 針路を左に転じている場合は、せん光を二回発すること。

三 機関を後進にかけている場合は、せん光を三回発すること。

3 前項のせん光の継続時間及びせん光とせん光との間隔は、約一秒とする。

4 船舶は、互いに他の船舶の視野の内にある場合において、第九条第四項の規定による汽笛信号を行うときは、次の各号に定めるところにより、これを行わなければならない。

一 他の船舶の右げん側を追い越そうとする場合は、長音二回に引き続く短音一回を鳴らすこと。

二 他の船舶の左げん側を追い越そうとする場合は、長音二回に引き続く短音二回を鳴らすこと。

三 他の船舶に追い越されることに同意した場合は、順次に長音一回、短音一回、長音一回及び短音一回を鳴らすこと。

5 互いに他の船舶の視野の内にある船舶が互いに接近する場合において、船舶は、他の船舶の意図若しくは動作を理解することができないとき、又は他の船舶が衝突を避けるために十分な動作をとつていることについて疑いがあるときは、直ちに急速に短音を五回以上鳴らすことにより汽笛信号を行わなければならない。この場合において、その汽笛信号を行う船舶は、急速にせん光を五回以上発することにより発光信号を行うことができる。

6 船舶は、障害物があるため他の船舶を見ることができない狭い水道等のわん曲部その他の水域に接近する場合は、長音一回の汽笛信号を行わなければならない。この場合において、その船舶に接近する他の船舶は、そのわん曲部の付近又は障害物の背後においてその汽笛信号を聞いたときは、長音一回の汽笛信号を行うことによりこれに応答しなければならない。

7 船舶は、二以上の汽笛をそれぞれ百メートルを超える間隔を置いて設置している場合において、第一項又は前三項の規定による汽笛信号を行うときは、これらの汽笛を同時に鳴らしてはならない。

8 第二項及び第五項後段の規定による発光信号に使用する灯火は、五海里以上の視認距離を有する白色の全周灯とし、その技術上の基準及び位置については、国土交通省令で定める。

(視界制限状態における音響信号)
第三十五条 視界制限状態にある水域又はその付近における船舶の信号については、次項から第十三項までに定めるところによる。

2 航行中の動力船(第四項又は第五項の規定の適用があるものを除く。次項において同じ。)は、対水速力を有する場合は、二分を超えない間隔で長音を一回鳴らすことにより汽笛信号を行わなければならない。

3 航行中の動力船は、対水速力を有しない場合は、約二秒の間隔の二回の長音を二分を超えない間隔で鳴らすことにより汽笛信号を行わなければならない。

4 航行中の船舶(帆船、漁ろうに従事している船舶、運転不自由船、操縦性能制限船及び喫水制限船(他の動力船に引かれているものを除く。)並びに他の船舶を引き、及び押している動力船に限る。)は、二分を超えない間隔で、長音一回に引き続く短音二回を鳴らすことにより汽笛信号を行わなければならない。

5 他の動力船に引かれている航行中の船舶(二隻以上ある場合は、最後部のもの)は、乗組員がいる場合は、二分を超えない間隔で、長音一回に引き続く短音三回を鳴らすことにより汽笛信号を行わなければならない。この場合において、その汽笛信号は、できる限り、引いている動力船が行う前項の規定による汽笛信号の直後に行わなければならない。

6 びよう泊中の長さ百メートル以上の船舶(第八項の規定の適用があるものを除く。)は、その前部において、一分を超えない間隔で急速に号鐘を約五秒間鳴らし、かつ、その後部において、その直後に急速にどらを約五秒間鳴らさなければならない。この場合において、その船舶は、接近してくる他の船舶に対し自船の位置及び自船との衝突の可能性を警告する必要があるときは、順次に短音一回、長音一回及び短音一回を鳴らすことにより汽笛信号を行うことができる。

7 びよう泊中の長さ百メートル未満の船舶(次項の規定の適用があるものを除く。)は、一分を超えない間隔で急速に号鐘を約五秒間鳴らさなければならない。この場合において、前項後段の規定を準用する。

8 びよう泊中の漁ろうに従事している船舶及び操縦性能制限船は、二分を超えない間隔で、長音一回に引き続く短音二回を鳴らすことにより汽笛信号を行わなければならない。

9 乗り揚げている長さ百メートル以上の船舶は、その前部において、一分を超えない間隔で急速に号鐘を約五秒間鳴らすとともにその直前及び直後に号鐘をそれぞれ三回明確に点打し、かつ、その後部において、その号鐘の最後の点打の直後に急速にどらを約五秒間鳴らさなければならない。この場合において、その船舶は、適切な汽笛信号を行うことができる。

10 乗り揚げている長さ百メートル未満の船舶は、一分を超えない間隔で急速に号鐘を約五秒間鳴らすとともにその直前及び直後に号鐘をそれぞれ三回明確に点打しなければならない。この場合において、前項後段の規定を準用する。

11 長さ十二メートル以上二十メートル未満の船舶は、第七項及び前項の規定による信号を行うことを要しない。ただし、その信号を行わない場合は、二分を超えない間隔で他の手段を講じて有効な音響による信号を行わなければならない。

12 長さ十二メートル未満の船舶は、第二項から第十項まで(第六項及び第九項を除く。)の規定による信号を行うことを要しない。ただし、その信号を行わない場合は、二分を超えない間隔で他の手段を講じて有効な音響による信号を行わなければならない。

13 第二十九条に規定する水先船は、第二項、第三項又は第七項の規定による信号を行う場合は、これらの信号のほか短音四回の汽笛信号を行うことができる。

14 押している動力船と押されている船舶とが結合して一体となつている場合は、これらの船舶を一隻の動力船とみなしてこの章の規定を適用する。

(注意喚起信号)
第三十六条 船舶は、他の船舶の注意を喚起するために必要があると認める場合は、この法律に規定する信号と誤認されることのない発光信号又は音響による信号を行い、又は他の船舶を眩(げん)惑させない方法により危険が存する方向に探照灯を照射することができる。

2 前項の規定による発光信号又は探照灯による照射は、船舶の航行を援助するための施設の灯火と誤認されるものであつてはならず、また、ストロボ等による点滅し、又は回転する強力な灯火を使用して行つてはならない。

(遭難信号)
第三十七条 船舶は、遭難して救助を求める場合は、国土交通省令で定める信号を行わなければならない。

2 船舶は、遭難して救助を求めていることを示す目的以外の目的で前項の規定による信号を行つてはならず、また、これと誤認されるおそれのある信号を行つてはならない。

第五章 補則

(切迫した危険のある特殊な状況)
第三十八条 船舶は、この法律の規定を履行するに当たつては、運航上の危険及び他の船舶との衝突の危険に十分に注意し、かつ、切迫した危険のある特殊な状況(船舶の性能に基づくものを含む。)に十分に注意しなければならない。

2 船舶は、前項の切迫した危険のある特殊な状況にある場合においては、切迫した危険を避けるためにこの法律の規定によらないことができる。

(注意等を怠ることについての責任)
第三十九条 この法律の規定は、適切な航法で運航し、灯火若しくは形象物を表示し、若しくは信号を行うこと又は船員の常務として若しくはその時の特殊な状況により必要とされる注意をすることを怠ることによつて生じた結果について、船舶、船舶所有者、船長又は海員の責任を免除するものではない。

(他の法令による航法等についてのこの法律の規定の適用等)
第四十条 第十六条、第十七条、第二十条(第四項を除く。)、第三十四条(第四項から第六項までを除く。)、第三十六条、第三十八条及び前条の規定は、他の法令において定められた航法、灯火又は形象物の表示、信号その他運航に関する事項についても適用があるものとし、第十一条の規定は、他の法令において定められた避航に関する事項について準用するものとする。

(この法律の規定の特例)
第四十一条 船舶の衝突予防に関し遵守すべき航法、灯火又は形象物の表示、信号その他運航に関する事項であつて、港則法(昭和二十三年法律第百七十四号)又は海上交通安全法(昭和四十七年法律第百十五号)の定めるものについては、これらの法律の定めるところによる。

2 政令で定める水域における水上航空機等の衝突予防に関し遵守すべき航法、灯火又は形象物の表示、信号その他運航に関する事項については、政令で特例を定めることができる。

3 国際規則第一条(c)に規定する位置灯、信号灯、形象物若しくは汽笛信号又は同条(e)に規定する灯火若しくは形象物の数、位置、視認距離若しくは視認圏若しくは音響信号装置の配置若しくは特性(次項において「特別事項」という。)については、国土交通省令で特例を定めることができる。

4 条約の締約国である外国が特別事項について特別の規則を定めた場合において、国際規則第一条(c)又は(e)に規定する船舶であつて当該外国の国籍を有するものが当該特別の規則に従うときは、当該特別の規則に相当するこの法律又はこの法律に基づく命令の規定は、当該船舶について適用しない。

(経過措置)
第四十二条 この法律の規定に基づき命令を制定し、又は改廃する場合においては、その命令で、その制定又は改廃に伴い合理的に必要と判断される範囲内において、所要の経過措置を定めることができる。

附 則 抄

(施行期日)

第一条 この法律は、条約が日本国について効力を生ずる日から施行する。ただし、次条第二項の規定は、公布の日から施行する。

(分離通航方式に関する経過措置)

第二条 この法律の施行前に政府間海事協議機関が採択した分離通航方式(以下「既設分離通航方式」という。)は、改正後の海上衝突予防法(以下「新法」という。)第十条第一項に規定する分離通航方式とみなす。

2 海上保安庁長官は、この法律の施行前においても、既設分離通航方式について新法第十条第十三項の規定の例により告示することができる。

(灯火の視認距離に関する経過措置)

第三条 この法律の施行前に建造され、又は建造に着手された船舶が表示すべき灯火の視認距離については、新法第二十二条の規定にかかわらず、条約第四条1(a)の規定により条約が効力を生ずる日から起算して四年を経過する日までは、なお従前の例による。

附 則 (昭和五八年四月五日法律第二二号) 抄

(施行期日)

1 この法律は、昭和五十八年六月一日から施行する。

附 則 (平成七年三月一七日法律第三〇号)

この法律は、平成七年十一月四日から施行する。

附 則 (平成一一年一二月二二日法律第一六〇号) 抄

(施行期日)

第一条 この法律(第二条及び第三条を除く。)は、平成十三年一月六日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。

一 第九百九十五条(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律附則の改正規定に係る部分に限る。)、第千三百五条、第千三百六条、第千三百二十四条第二項、第千三百二十六条第二項及び第千三百四十四条の規定 公布の日

附 則 (平成一五年六月四日法律第六三号)

この法律は、平成十五年十一月二十九日から施行する。