はじめに
前回は、ディーゼル機関の中でも出題の多い、シリンダライナとピストンリングについて整理しました。
今回は、ディーゼル機関の始動に関係する、始動弁と始動空気装置について整理します。
船舶用ディーゼル機関、特に大型機関では、機関を始動するために圧縮空気を使用します。
始動空気を適切な時期にシリンダ内へ送り込み、ピストンを押し下げることで、機関を回転させます。
このとき重要になるのが、
- 始動弁
- 始動空気管制弁
- 始動空気分配弁
- 始動空気管
- 始動空気自動弁
などの装置です。
試験では、部品名だけでなく、始動時にどの弁がどのように作動するか、また、始動空気管内爆発の原因と防止策がよく問われます。
始動空気装置の役割
ディーゼル機関は、停止している状態では自力で回転を始めることができません。
そのため、始動時には、空気タンクに蓄えられた圧縮空気をシリンダ内へ送り込み、ピストンを押し下げて機関を回転させます。
この始動用の圧縮空気を、始動空気といいます。
始動空気装置の役割は、簡単にいえば、
- 必要なシリンダへ、必要な時期に、始動空気を送ること
です。
もし、送る時期やシリンダを誤ると、機関の始動が困難になったり、逆に回転を妨げたりすることがあります。
始動弁とは
始動弁は、始動空気をシリンダ内へ入れるための弁です。
始動時には、始動空気が始動弁を通ってシリンダ内へ入り、ピストンを押し下げます。
一方、燃料運転中には、始動弁は確実に閉じていなければなりません。
始動弁が閉じ切っていないと、燃焼ガスが始動空気管内へ逆流し、重大な事故につながるおそれがあります。
始動弁の作動の考え方
始動弁は、単に始動空気圧だけで開閉するのではなく、管制空気によって開閉を制御される場合があります。
基本的な流れは、次のように整理できます。
| 段階 | 作動 |
|---|---|
| 始動操作 | 始動ハンドルを操作する |
| 管制空気の供給 | 管制空気が始動空気管制弁へ送られる |
| 始動弁の開弁 | 管制空気が始動弁の空気ピストンに作用し、始動弁が開く |
| 始動空気の流入 | 始動空気がシリンダ内へ入る |
| 始動弁の閉弁 | 管制空気が大気へ放出され、ばねの力で始動弁が閉じる |
ここで大切なのは、始動空気そのものをシリンダに送る経路と、始動弁を開閉するための管制空気の経路を区別することです。
試験では、この違いを理解していないと、図問題で混乱しやすくなります。
始動空気管制弁とは
始動空気管制弁は、始動弁を開くための管制空気を、適切な時期に始動弁へ送るための弁です。
始動カムによって作動し、各シリンダの始動時期に合わせて管制空気を送ります。
始動時には、管制空気が始動弁の空気ピストン上部へ送られ、始動弁が開きます。
その後、始動カムの位置が変わると、管制空気は管制弁から大気へ放出され、始動弁はばねの力で閉じます。
つまり、始動空気管制弁は、始動弁の「開け閉めの指令」を出す装置と考えると分かりやすいです。
始動後、始動空気管内の空気はどうなるか
始動して燃料運転に移った後は、始動空気管内に高圧空気を残したままにしないことが重要です。
空気タンクと始動装置の間にある始動空気自動弁が閉じた後、始動空気管内の空気は、大気放出口などから放出されます。
これにより、始動空気管内に不要な圧力が残らないようにします。
始動空気管内に圧力や油分、燃焼ガスが残ると、事故の原因になることがあります。
回転弁式始動装置とは
試験では、回転弁式始動装置も出題されます。
回転弁式始動装置では、始動空気分配弁が、各シリンダの始動弁へ管制空気を送る役割をします。
図に関する問題として、

- 図のAはカム軸、Bは始動空気分配弁である。
- カム軸Aと始動空気分配弁Bは、オルダム継手で接続されている。
- 始動弁へ管制空気を送る管はCであり、この管は始動弁のパイロット弁、またはピストン弁へつながる。
- D側から入った管制空気は、分配弁を本体側へ押し付け、気密を保つ働きにも関係する。
という内容が整理されています。
この問題では、図の記号を覚えるだけでなく、分配弁がどのシリンダへ管制空気を送るかを決めているという役割を理解することが大切です。
オルダム継手を用いる理由
回転弁式始動装置では、カム軸と始動空気分配弁をオルダム継手で接続する場合があります。
これは、分配弁がシート面との気密を保つために、軸方向にわずかに動ける必要があるためです。
つまり、単に回転を伝えるだけでなく、分配弁が本体に適切に押し付けられ、気密を保つ構造上の都合があります。
このような理由まで理解しておくと、記述問題にも対応しやすくなります。
始動弁のガスケット不良
空気管制弁式始動弁では、ガスケット不良に関する問題もあります。
始動弁には、始動空気や燃焼ガスが通るため、ガスケットが不良になると漏れが発生します。
整理すると、次のようになります。
| 箇所 | 不良時に起こること |
|---|---|
| ゴムガスケット | 始動時に始動空気が漏出する。運転時には、シリンダヘッド上にたまった潤滑油が漏入する場合がある |
| 銅ガスケット | 運転時に圧縮・爆発時のシリンダ内ガスが漏出する。始動時には、始動空気がシリンダ側へ漏入することがある |
ここでは、始動時と運転時で何が漏れるかを分けて覚えることが大切です。
始動弁が開いたまま固着した場合
始動弁が開弁状態で固着すると、重大な不具合を生じます。
主な害は次のとおりです。
| 害 | 内容 |
|---|---|
| 始動困難 | 不必要なシリンダへ始動空気が送られ、ブレーキのように作用する |
| 異常高圧 | 始動時にシリンダ内圧力が非常に高くなる |
| 始動弁の損傷 | 燃焼ガスが始動弁へ入り、弁を損傷する |
始動弁は、始動時には確実に開き、燃料運転中には確実に閉じる必要があります。
特に燃料運転中に漏れがあると、始動空気管内爆発の原因にもなります。
始動空気管内爆発とは
始動空気装置で特に重要なのが、始動空気管内爆発です。
これは、始動空気管内に燃焼ガスや油分が入り、爆発を起こす事故です。
始動空気管内爆発は、機関室の重大事故につながるおそれがあるため、試験でもよく問われます。
始動空気管内爆発の原因
始動空気管内爆発の主な原因は、次のとおりです。
| 原因 | 内容 |
|---|---|
| 始動弁の漏えい | 始動弁が完全に閉じず、燃焼ガスが始動空気管内へ逆流する |
| 油分の滞留 | 始動空気管内に潤滑油や油分がたまる |
| 可燃性油気の残留 | 手入れ時に石油などの可燃性油気が残る |
| ドレン排出不良 | 始動空気管内のドレンや油分が排除されない |
最も重要なのは、始動弁の漏えいによる燃焼ガスの逆流です。
高温の燃焼ガスが始動空気管内へ入ると、管内の油分が発火・爆発する危険があります。
始動空気管内爆発を防ぐには
始動空気管内爆発を防ぐには、次のような注意が必要です。
| 防止策 | 内容 |
|---|---|
| 始動弁の保守 | 始動弁が確実に閉鎖するよう保守する |
| 弁取付けの確認 | 弁の取付けを慎重に行い、変形やばねの弱りに注意する |
| 可燃性油気を残さない | 手入れ時に石油などの可燃性油気を残さない |
| 注油量に注意 | 過度な注油を避ける |
| ドレン排除 | 始動空気管のドレンを確実に排除する |
| 温度監視 | 運転中、始動弁付近の空気管温度に注意する |
| 始動ミスを減らす | 始動空気の使用量をできるだけ少なくする |
始動空気管内爆発の防止では、単に「ドレンを抜く」と覚えるだけでなく、燃焼ガス、油分、空気がそろうと危険であるという考え方で理解すると分かりやすくなります。
試験で押さえるポイント
今回のテーマでは、次の点を押さえておくとよいと思います。
| テーマ | 押さえるポイント |
|---|---|
| 始動弁 | 始動空気をシリンダ内へ送る弁。燃料運転中は確実に閉じる必要がある |
| 始動空気管制弁 | 管制空気を始動弁へ送り、始動弁を開閉させる |
| 回転弁式始動装置 | 始動空気分配弁が各シリンダへの管制空気を分配する |
| オルダム継手 | カム軸と分配弁を接続し、中心軸が少しずれていても回転力を滑らかに伝える |
| ガスケット不良 | 始動時と運転時で、漏れるものが異なる |
| 始動空気管内爆発 | 始動弁漏えい、燃焼ガス逆流、油分滞留が重要原因 |
特に、始動装置では、始動空気の流れと管制空気の流れを分けて考えることが大切です。
実船では
実船では、始動空気装置は機関を安全に始動するための重要な装置です。
始動弁の漏れや始動空気管のドレン排出不良は、重大な事故につながるおそれがあります。
また、始動ミスが多い場合や、始動空気の消費量が多い場合には、始動弁や管制弁、分配弁の作動状態を確認する必要があります。
試験では図を用いた問題として出題されることが多いですが、実際には日常点検、始動前確認、運転中の異常監視に直結する内容です。
おわりに
今回は、始動弁と始動空気装置について整理しました。
ポイントは、次の3つです。
- 始動空気は、機関を回し始めるためにシリンダ内へ送られる
- 管制空気は、始動弁を開閉するために使われる
- 始動弁の漏えいは、始動空気管内爆発の原因となる
始動装置は、部品名だけを覚えると分かりにくい分野です。
しかし、空気の流れと弁の作動を順番に追うと、理解しやすくなります。
次回は、燃料をシリンダへ送るための重要な装置である、燃料噴射ポンプについて整理します。
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