はじめに
前回は、インジケータ線図と性能判断について整理しました。今回は、ディーゼル機関シリーズのまとめとして、故障・異常現象と損傷防止について整理します。ディーゼル機関では、構造や作動原理を知るだけでなく、異常が起きたときに、どのような原因が考えられるか、どのような害が生じるかを理解しておくことが大切です。試験では、次のような内容がよく問われます。
- 危険速度
- 運転中の振動
- ブローバイ
- 長時間の低速運転
- ディーゼルノック
- クランク室爆発
- 損傷事故発生時の基本対応
これらは、それぞれ別々の問題に見えますが、実際にはつながっています。振動、異常燃焼、潤滑不良、摩耗、発熱、油ミスト、爆発などは、機関の安全運転に直結します。
危険速度とは
危険速度とは、軸系の固有振動数と、機関から軸系に作用する強制振動数が一致し、大きなねじり振動を生じる回転速度のことです。軸系には、クランク軸、中間軸、プロペラ軸などが含まれます。これらの軸系には、それぞれ固有の振動しやすい性質があります。一方、ディーゼル機関では、各シリンダの燃焼によって周期的な力が発生します。この軸系の固有振動と、機関からの強制振動が共振すると、ねじり振動が非常に大きくなります。このときの回転速度が、危険速度です。
危険速度で運転するとどうなるか
危険速度付近で運転を続けると、軸系や機関各部に大きな損傷を生じるおそれがあります。
| 生じる害 | 内容 |
|---|---|
| 激しい振動 | 機関や船体に大きな振動を生じる |
| 軸系の損傷 | クランク軸、中間軸、プロペラ軸に大きなねじり振動がかかる |
| 亀裂・折損 | 軸に亀裂を生じ、折損の原因となる |
| キー溝・継手の損傷 | キー溝が傷み、継手ボルトを折損することがある |
| 歯車類の損傷 | クランク軸に関連する歯車類を損傷することがある |
| ピストンの異常振動 | 焼付きの原因となることがある |
| 出力低下・燃料消費量増加 | 有効出力の一部が振動や摩耗に奪われる |
危険速度は、「その回転数で長く運転してはいけない回転域」として理解すると分かりやすいです。通過する場合は速やかに通過し、危険速度付近での連続運転を避けることが重要です。
運転中に振動が大きくなる場合
運転中に振動が大きくなる原因も、試験でよく問われます。主な原因は次のとおりです。
| 原因 | 内容 |
|---|---|
| 取付けボルトの緩み・折損 | シリンダ架構、機関台などの取付けが不安定になる |
| 危険速度付近での運転 | ねじり振動が大きくなる |
| 各シリンダの出力不均一 | 出力や最高圧がそろわず、機関の回転が不均一になる |
| ノッキング | 急激な圧力上昇により振動が大きくなる |
| 軸受メタルの異常 | 摩耗や焼損により油隙間が過大になる |
| 防振ステーの異常 | 防振ステーの折損や緩みにより振動が増す |
振動が大きい場合には、単に「振動している」と見るのではなく、機関本体、軸受、燃焼状態、軸系、防振装置のどこに原因があるかを考える必要があります。特に、各シリンダの出力や最高圧が不均一な場合は、燃料噴射装置や燃焼状態の異常とも関係します。
ブローバイとは
ブローバイとは、シリンダ内の燃焼ガスが、ピストンリングとシリンダライナの間を通って、クランク室側へ漏れる現象です。本来、ピストンリングは燃焼ガスの気密を保つ役割を持っています。しかし、シリンダライナやピストンリングに異常があると、燃焼ガスがリング部を通り抜け、クランク室側へ漏れてしまいます。
ブローバイが発生する場合
ブローバイは、主に次のような場合に発生します。
| 原因 | 内容 |
|---|---|
| シリンダライナの摩耗 | ライナとリングの気密が悪くなる |
| ピストンリングの折損・固着 | リングが正常に働かない |
| ピストンリングの摩耗 | リングの張力や密封性が低下する |
| 潤滑不良 | ライナとリングの摺動面が悪化する |
| 高負荷運転 | シリンダ内圧が高くなり、ガスが漏れやすくなる |
ブローバイは、単に「ガスが漏れる」というだけではありません。燃焼状態、潤滑、摩耗、クランク室内の安全に関係する重要な異常現象です。
ブローバイを放置するとどうなるか
ブローバイが発生したまま運転を続けると、次のような害が生じます。
| 害 | 内容 |
|---|---|
| 潤滑油の汚損 | 燃焼ガスがクランク室へ入り、潤滑油を汚す |
| 油膜破壊 | ピストンとライナの潤滑油膜が破壊される |
| 焼付き・亀裂 | 潤滑不良により焼付きや亀裂を生じる |
| 圧縮圧低下 | 気密が悪くなり、圧縮圧が低下する |
| 燃焼不良 | 圧縮圧低下により燃焼状態が悪くなる |
| クランク室爆発 | クランク室内の温度が上昇し、爆発につながることがある |
ブローバイは、クランク室爆発にもつながる可能性があります。そのため、排気色、クランク室内の温度、潤滑油の汚れ、圧縮圧、燃焼状態などを総合的に見て判断する必要があります。
長時間の低速運転を避ける理由
ディーゼル機関では、長時間の低速運転を避けた方がよいとされます。低速・低負荷運転では、シリンダ内の発生熱量が少なくなります。そのため、シリンダ壁面温度や燃焼ガス温度が低くなりやすくなります。この状態が続くと、燃焼不良や摩耗、カーボン付着などの原因になります。
低速運転で起こりやすい不具合
長時間の低速運転では、次のような不具合が起こりやすくなります。
| 不具合 | 内容 |
|---|---|
| 燃焼ガス温度の低下 | 燃焼状態が悪くなりやすい |
| 燃焼不良 | 燃料が完全に燃えにくくなる |
| カーボン付着 | 燃焼不良により炭化物が増える |
| シリンダライナ摩耗 | 潤滑状態や腐食性成分の影響を受けやすい |
| ピストンリングの固着 | カーボン付着によりリングの動きが悪くなる |
| 潤滑油の汚損 | 未燃燃料や燃焼生成物の影響を受ける |
| 排気系統の汚れ | 排気通路や過給機側にも汚れがたまりやすい |
低速運転そのものが直ちに危険という意味ではありません。しかし、長時間続けると、燃焼温度が十分に上がらず、燃焼不良や汚損が進みやすくなります。必要に応じて負荷を上げる、運転状態を確認する、排気温度や排気色に注意するなどの管理が必要です。
ディーゼルノック
ディーゼルノックは、燃焼初期に急激な圧力上昇を生じ、異常音や振動を伴う現象です。点火遅れが長くなると、着火するまでの間に噴射された燃料が燃焼室内にたまります。その後、着火すると、その燃料が一度に燃え、圧力が急激に上昇します。このため、ディーゼルノックでは、
- 点火遅れが長い
- 圧力上昇率が大きい
- 最高圧が高い
という特徴があります。

ディーゼルノックを防ぐには
ディーゼルノックを防ぐには、点火遅れを長くしないことが大切です。主な方法は次のとおりです。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 発火性のよい燃料を使う | セタン価の高い燃料を選ぶ |
| 圧縮圧を下げない | ピストン、シリンダの気密を保つ |
| 燃料噴射を良好にする | 燃料噴射ポンプの油密をよくする |
| 燃料噴射弁を整備する | 漏れをなくし、圧力調整を適正に行う |
| 冷却水温度を下げすぎない | シリンダ内温度が低くなりすぎないようにする |
| 噴射率を少なくする | 一時に多量の燃料が燃えるのを避ける |
ディーゼルノックは、第11話で扱ったインジケータ線図とも関係します。音や振動だけで判断するのではなく、最高圧、圧縮圧、排気温度、燃料噴射状態などと合わせて考えることが大切です。
クランク室爆発
クランク室爆発は、ディーゼル機関の重大事故の一つです。クランク室内で軸受の過熱、摩擦、焼付きなどが起こると、潤滑油が霧状になり、油ミストが発生します。この油ミストが高温部で着火すると、クランク室内で爆発を起こすことがあります。また、ブローバイにより燃焼ガスがクランク室へ漏れる場合も、温度上昇や油ミスト発生に関係し、危険性が高まります。
クランク室爆発を疑う場合の注意
クランク室爆発のおそれがあるときは、むやみにクランク室ドアを開けてはいけません。停止後は、ターニングを行いながら自然冷却を待ちます。冷却を待たずにクランク室ドアを開けると、新鮮な空気がクランク室内へ入り、爆発を誘引するおそれがあります。ここは実務上も非常に重要です。異常発熱や油ミストの発生が疑われる場合には、あせって内部を確認しようとせず、二次爆発を防ぐことを優先します。
クランク室爆発の防止設備
クランク室爆発を防ぐ、または被害を小さくするため、次のような設備が設けられます。
| 設備 | 役割 |
|---|---|
| ガス抜き管 | クランク室内のガスを外気へ逃がす |
| 自動閉鎖式逃し弁 | 爆発時の圧力を逃がし、外気の逆流を防ぐ |
| 防爆扉 | 爆発時の圧力を逃がして損傷を軽減する |
これらは、クランク室内で異常圧力が発生した場合に、被害を軽減するためのものです。ただし、設備があるから安全ということではありません。軸受の発熱、潤滑油の状態、金属粉、異常音、振動などを日常的に確認し、爆発につながる原因を早期に発見することが重要です。
損傷事故が発生した場合の基本対応
運転中に、機関が突然急回転したり、異常に大きな音を出したり、損傷事故を起こした場合には、落ち着いて対応する必要があります。基本的な対応は、次のように整理できます。
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 直ちに機関を停止するか、必要に応じて微速に減速する |
| 2 | 主機を停止または減速した後、船橋へ連絡する |
| 3 | 事故の状況を調べる |
| 4 | 一等機関士、機関長へ報告し、次の処置について指示を受ける |
| 5 | 主機停止に伴うプラント変動を防ぐための処置を行う |
| 6 | 原因が判明すれば修理して航海を続行する |
| 7 | 長期航海に耐えられない場合は、最寄り港に入港できるよう応急運転の手段を尽くす |
ここで大切なのは、無理に運転を続けないことです。損傷事故が発生している状態で無理な運転を続けると、損傷範囲が広がり、復旧が困難になることがあります。
異常現象をつなげて理解する
今回扱った内容は、それぞれ別々に暗記するよりも、異常現象のつながりで理解すると分かりやすくなります。
| 現象 | 関係する主な要素 |
|---|---|
| 危険速度 | 軸系のねじり振動、共振、軸損傷 |
| 振動増大 | 取付け不良、危険速度、燃焼不均一、ノック、軸受異常 |
| ブローバイ | ライナ摩耗、リング異常、潤滑不良、圧縮圧低下 |
| 低速運転 | 燃焼温度低下、カーボン付着、燃焼不良、摩耗 |
| ディーゼルノック | 点火遅れ、圧力上昇率、最高圧、振動 |
| クランク室爆発 | 軸受発熱、油ミスト、ブローバイ、二次爆発 |
| 損傷事故 | 停止・減速、船橋連絡、上級者報告、応急運転 |
このように整理すると、ディーゼル機関の故障問題は、単なる暗記ではなく、原因と結果の流れとして理解できます。
試験で押さえるポイント
今回のテーマでは、次の点を押さえておくとよいと思います。
| テーマ | 押さえるポイント |
|---|---|
| 危険速度 | 固有振動と強制振動が共振し、大きなねじり振動を生じる回転速度 |
| 危険速度の害 | 軸系損傷、亀裂、折損、歯車損傷、ピストン焼付き、燃料消費量増加 |
| 振動原因 | 取付けボルト緩み、危険速度、出力不均一、ノッキング、軸受異常、防振ステー異常 |
| ブローバイ原因 | ライナ摩耗、リング折損・固着、リング摩耗、潤滑不良、高負荷 |
| ブローバイの害 | 潤滑油汚損、油膜破壊、焼付き、圧縮圧低下、燃焼不良、クランク室爆発 |
| 低速運転 | 燃焼温度低下、燃焼不良、カーボン付着、摩耗、潤滑油汚損に注意 |
| ディーゼルノック | 点火遅れが長く、圧力上昇率が大きく、最高圧が高い |
| クランク室爆発 | 油ミスト、高温部、空気の流入に注意。すぐにドアを開けない |
| 損傷事故対応 | 停止または減速、船橋連絡、機関長等への報告、応急運転の判断 |
特に、危険速度、ブローバイ、ディーゼルノック、クランク室爆発は、繰り返し出題される重要テーマです。言葉だけでなく、原因、害、防止・対応をセットで覚えるようにしましょう。
実船では
実船では、異常現象を早期に見つけることが、重大事故を防ぐために重要です。振動が大きい、排気温度が不揃い、クランク室の温度が高い、潤滑油が汚れている、金属粉が見られる、異常音がする、といった兆候は、機関のどこかで異常が進んでいるサインかもしれません。また、異常が起きたときには、すぐに原因を決めつけるのではなく、運転データ、音、振動、温度、圧力、潤滑油の状態などを総合的に確認する必要があります。試験では、原因や害を文章で答える問題が多いですが、実務では、それを早期発見と事故防止につなげることが大切です。
おわりに
今回は、ディーゼル機関の故障・異常現象と損傷防止について整理しました。ポイントは、次の3つです。
- 危険速度や振動は、軸系や機関本体の重大損傷につながる
- ブローバイ、低速運転、ディーゼルノックは、燃焼・潤滑・摩耗と深く関係する
- クランク室爆発や損傷事故では、あせらず安全を優先して対応する
これで、三級海技士(機関)内燃限定のディーゼル機関シリーズは一区切りです。
ディーゼル機関は範囲が広い分野ですが、構造、燃料、吸排気、過給、性能、故障という流れで整理すると、理解しやすくなります。次回からは、内燃限定で出題される次の分野として、補助ボイラについて整理していきます。
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