はじめに

以下は,三級海技士(航海)の筆記試験 「運用」の船舶の操縦性能に関する過去問題です。

※ 出題は,平成28年2月から令和7年2月定期試験まで(10年分)の問題を調べたものです。(類)は,類似の問題を示します。解答は一緒です。平成=H,令和=Rに年/月を数字で示しております。

船舶の操縦性能

〔問題1〕

固定ピッチプロペラの二軸船をその場で回頭させるため,回頭舷の主機を後進に,反対舷の主機を前進にかけて両舷の主機の推力を利用する場合,互いのプロペラが外向きに回転する外回り式とその逆の内回り式では,どちらのほうが回頭に有利か。理由とともに述べよ。
【出題:H28/02,H29/07,H30/02,R01/07,R01/10,R03/10,R04/10,R06/02】

〔問題2〕

可変ピッチプロペラの二軸船をその場で回頭させるため,回頭舷の主機を後進に,反対舷の主機を前進にかけて両舷の主機の推力を利用する場合,互いのプロペラが外向きに回転する外回り式とその逆の内回り式では,どちらのほうが回頭に有利か。理由とともに述べよ。
【出題:,R04/07,R07/02】

解答

外回り式の二軸船において,左舷のプロペラを前進,右舷のプロペラを後進として右回頭を行った場合,右舷プロペラの左回転によるサイドワイズプレッシャーによる船首の偏向作用とプロペラ放出流の船尾側圧作用はいずれも船尾を左に押す方向に働く。また,左舷プロペラに働くサイドワイズプレッシャーも船尾を左の方向に押すように働くため,これらの力が相まって船首の右回頭が助長される。これは左舷プロペラを後進,右舷プロペラを前進として左回頭を行うときも同様に現れる。
プロペラが内回り式の場合はこの特徴は失われる。このため、外回り式の方が回頭には有利である。

〔問題3〕

固定ピッチプルペラの一軸右回り船が,風潮等外力の影響のない海上を舵中央で前進航走している場合のプロペラの作用等に関する次の問いに答えよ。
(1) プロペラの回転によって生じる水の流れと名称を略図で示せ。
(2) (1)の流れは船首の偏向にどのような影響を及ぼすか。
(3) 横圧力は船首の偏向にどのような影響を及ぼすか。理由とともに述べよ。
【出題:R05/07】

解答

(1) プロペラが水中で回転すると,プロペラに吸引される「吸入流」と,プロペラから螺旋状になって排出される「放出流」が生じる。
吸入流は,船底から斜め上向きの流れとなってプロペラに流れ込む。プロペラから後方に右回りに排出された放出流は,プロペラ軸から上部の舵面には左から右へ,下部の舵面には右から左へ流れ込み舵を押す。

(2) 吸入流の作用:プロペラ翼が右半円を回る時は,左半円を回るときよりも推力を増すため,船首をやや左に偏向させる。
放出流の作用:舵に対する流れの入射角は,舵上部の流れよりも下部の流れの方が大きいため,舵下部を左舷に押す舵圧の方が,舵上部を右舷に押す舵圧よりも大きくなる。このため,舵中央の場合でも,右回頭の傾向となる。

(3) プロペラが回転すると,プロペラ翼は翼面と直角方向に水の反力を受ける。この反力のうち,船首尾方向の分力は船を前進させる推力となり,横方向の分力は船に回頭作用を与える。水の反力の大きさは水面からの深さに比例して大きくなるため,横方向の分力もプロペラの上部より下部の方が大きくなり,その結果,右回り一軸船においては,前進時には船尾が右舷に押される。

運動性能

〔問題1〕

右図は,速力8ノットで航走中の船が,舵角35度で右回頭したときの旋回運動の軌跡(対地)を示したものである。実線は潮流のないときの軌跡,㋐~㋒はそれぞれ異なった方向から1ノットの潮流を受けたときの軌跡を示す。次の(1)~(3)は図中の㋐,㋑及び㋒のいずれの軌跡に該当するか。ただし,潮流以外の条件は変わらないものとする。
(1) 潮流を船首方向から受けて操舵を開始したときの軌跡
(2) 潮流を船尾方向から受けて操舵を開始したときの軌跡
(3) 潮流を右げん正横方向から受けて操舵を開始したときの軌跡
【出題:R02/07,R05/04】

〔問題2〕

旋回圏に関する次の用語を説明せよ。
(1) 心距(reach) (2) 転心(pivoting point)
【出題:H28/07,R03/07,R04/10,R07/02】

解答

(1)旋回中心の縦距離

(2)旋回圏中心から船首尾線に下ろした垂線の足

コメント

転心は船体が旋回する際の軸となる点であり,旋回圏中心から船首尾線に下ろした垂線の足である。前進中,転心Pは船体の重心Gから前方1/4~1/3Lの位置にあり,旋回径の小さい船ほど転心は船首方向に移動する。旋回中は転心を中心として船があたかも回転しているように見え,転心より前部は転舵側へ,後部は反対側に回転しその結果船尾が大きく振れることになる。(航海訓練所シリーズ 読んでわかる三級航海 運用編 p5)

〔問題3〕

新針路距離に関する次の問いに答えよ。
(1) 新針路距離とは何か。【出題:R03/02,R06/04,R06/10】
(2) 新針路距離を知っておくことは,操船上どのような場合に役立つか。例を2つあげよ。
【出題:R03/02,R06/04】
(3) 操船上,どのような場合に新針路距離を考慮しなければならないか。例を2つあげよ。
【出題:R06/10】

解答例

(1) 船がある針路で航走中に転舵して変針する場合に転舵してから次の目的針路になるまでには遅れが生じる。この遅れの間に航走する距離を新針路距離という。具体的には,舵をとった位置(O)から,原針路の延長線と新針路に至った時の位置からの新針路の延長線との交点(B)までの距離(OB)である。英語では「New Course Distance」と表現される。

(2) ① 変針を行う際,次の計画進路に乗せるために転舵をいつ頃行えば良いか逆算できる。
② 新針路距離は転舵を行う際の舵角により異なってくる。予定される変針角度に対し,どれだけの舵角をとれば良いかが求められる。

〔問題4〕

固定ピッチプロペラの一軸右回り船が,風潮等外力の影響のない海上を舵中央で前進航走している場合のプロペラの作用等に関する次の問いに答えよ。
(1) プロペラの回転によって生じる水の流れと名称を略図で示せ。
(2) (1)の流れは船首の偏向にどのような影響を及ぼすか。
(3) 横圧力は船首の偏向にどのような影響を及ぼすか。理由とともに述べよ。
【出題:R02/04】

〔問題5〕

舵の性能に関する次の問いに答えよ。

(1) 右図は,速力Vで航行中の船舶が舵角δを取ったとき,舵に働く力①~⑤をベクトルで表したものである。①~⑤が示す力を下の語群から選べ。
〔解答例:⑥-(ケ)
(ア)直圧力 (イ)推進力 (ウ)揚力 (エ)摩擦力
(オ)重力 (カ)舵力 (キ)浮力 (ク)抗力
【出題:H31/02,R04/04,R05/10】
(2) (1)で示す①~⑤のうち,船の重心周りに船首を回頭させようとするモーメントを最も有効に作り出す力はどれか。 【出題:H31/02,R04/04】
(3) ③で示すような力が発生するのはなぜか。
【出題:R05/10】

風浪の影響

〔問題1〕

操船に及ぼす風浪の影響に関する次の問いに答えよ。
(1) 前進航走中の風の影響について:
(ア)船首が風上に切り上がる傾向を示すのはどのような場合か。
(イ)船首が風下に落とされる傾向を示すのはどのような場合か。
(船速,風向及び風力の関係を述べること。)
【出題:H28/10,H30/04(風浪:風と波) ,R02/10(風浪)】
(2) 前進航走中に波を受けたとき,船の回頭モーメントが最も大きいのは:
(ア)船体が波に対してどのような姿勢となったときか。
(イ)船の長さと波長とがどのような関係にあるときか。
【出題:H28/10,30/04,R02/10】

解答

(1) (ア)船の速力に比べてあまり強くない風を船が船首尾線以外の方向から受けて航走する場合には,船首はほとんど切り上がる。

(イ)低速で強い風を船が船首尾線以外の方向から受けて航走する場合には,時には船首が風下に落とされることがある。

(2)(ア)前進航走中の船が波を受けた時の回頭モーメントが最も大きくなるのは,向かい波の場合は,左右45°追い波の場合には左右135°からの波を受けた時である。

(イ)船の長さと波長が同じ長さになった時である。

〔問題2〕

前進航走中の操船に及ぼす風浪の影響に関する次の問いに答えよ。
(1) 船首が風上に切り上がる傾向を示すのはどのような場合か。
(2) 船首が風下に落とされる傾向を示すのはどのような場合か。
(船速,風向及び風力の関係を述べること。)
【出題: R05/02,R06/07】